2013年02月19日
カレン ユンハンス 紫電の炎
市 (2013年02月19日 13:23)
│Comments(4)
│語りのプラザ
★カレン ユンハンス★
飛行機は狭くて混んでいた。まずシカゴに飛び、そこからマサチューセッツ行きに乗り換えるのだが、ウンザリするほど時間がかかる。それだけに隣りに座った女性の存在はとても輝いた。
“キュークツな長旅でも、ひとりでなかったら時間が速く経つんだよね”
そんな話題から会話を始める。
“そうよ、ひとりで4時間もじっとしてるのは退屈なうえに疲れるものね”
“で、さっきから手に持っているケイスだけど、楽器?クラリネットかな?”
“オーボーなのよこれ”
“オーボー…?”
“小さいときからやっているの、今は地方のオーケストラで夜だけ練習してるのよ”
“オーボーって、あのベートーヴェンの交響曲3番の2楽章でストリングのあとにソロで奏でるあの楽器のことだよね?”
“えっ?あ、エロイカのことね?…そうよ、どうして?”
“あれは良い!”
“好き?・・・”
“好きなんてもんじゃないよ、あんなすごいものはめったにないよ。とくにフルトヴェングラーがベリンフィルを指揮したのが好きでね、2楽章が始まると胸がジーンとなって感動の世界に引き込まれるんだよ”
“ちょっと沈痛で陰鬱だけど、素晴らしく清潔で理知的で…”
“そう! それだよ、それ!”
“日本でもフルトヴェングラーは有名?”
“スーパースターだよ”
“まあ、うれしい!”
“フルトヴェングラーの演奏は超スローで行くよね、だから交響曲の9番はウンと長い。あの LPレコードをひっくり返さず通しで聴くのが日本のファンの夢だったんだよ。だから、CDの録音可能時間を決定するときに9番がスッポリ入るというのが第一条件だったんだよ。そしてそれは実行されたんだ、と雑誌で読んだよ”
“ステキな話ね!知らなかったわ。父が聞いたら大喜びして抱きついちゃうようなストーリーよ”
“君は愛されたんだね、お父さんに…”
“そうなの、だからオテンバよ”
窓際に座った彼女との話がはずんだ。こだわりのない性格らしく、まっすぐな返事が返ってくる。
“ところで、そろそろ、ぼくの美しいフレンドの名を聞いてもいいですか?”
“あっゴメン、私はカレン、カレン ユンハンスといいます…”
“ぼくはイチローだ、逢えてうれしいよ”
そう言いながら右手を差し出すと彼女はしっかりと握り返してきた。
“日本ではね、見知らぬ人達がこんなふうに早く打ち解けることってメッタにないんだ。アメリカでは、逢えて嬉しいと言ってアイサツをするけど日本人にはとても言えないセリフなんだ。どこか心を素直に表現できない空気がボクの国にはあるんだな”
“そう…自信のない人が多いのね。でもドイツ人の間にもそんな空気はあるのよ、アメリカってなんだか特別にオープンな感覚になってしまう国なのね”
“心がオープンになれないのは自信がないからというわけ?”
“そうよ、自分を信じられないから他人をも信じられないということよ。だから自分の本心は他人に知られたくない。隠しても仕方がないのは判っていても隠してしまう。だからますますありのままの自分から遠ざかってしまう…他人の目を気にして生きる人はどうしても自信を失ってしまうものだわ”
“うーん、なんだかぼくの内面のことを言われてるみたいだ…”
“ノー、あなたは内向的な性格には見えるけれど、とても心が開放されているから心配ないわ…私の兄なんて、もうたいへん…”
“兄さんがどうしたの?”
“…麻薬中毒なの…”
そう言うなりカレンの表情はドーンと暗くなった。アメリカには麻薬中毒者が多いので驚きはしなかった、が、彼女の妹としての心労には痛ましいものを感じた。
“…それで、兄さんは今どこに?入院とかしているの?”
“病院なんて行く気はなくて、姉のアパートに住みついて麻薬仲間とばかり集まって遊んでばかりいるの…”
“カレンと姉さんがどんなに言っても聞こうとしないというワケだね?好きなの?兄さんを?”
“キライだったわ…気が弱いくせに妹の私をイジメてばかり…ちょっとしたことで怒って、すぐに蹴るの。やつあたりのターゲットはいつも私だった…”
“今もまだ嫌い?”
“トラブルメイカーなのよ麻薬患者は。心は弱いくせにミエを張って、凶暴だし、少しも尊敬できる性格ではないのよ。私と兄をつないでいるのは兄妹という文字だけなのよ、ほかにはなにもない…”
“じゃ、ほっとくしかないんだ、離れていれば実害はないんだろ?”
“今まではね・・・。でも姉がどうしても兄のことで相談があるから来るようにって言うのよ。だから私は夏のアルバイトを休んでマサチューセッツに行くところなの…”
“君は大学生?”
“うん、デイヴィスのね…心理学専攻なの”
“で、姉さんはカレンにどんな相談だろ?”
“兄がね、悪い仲間からオカネを借りているの、それが10万ダラ以上という大金で、私たちにはとても払えない金額なんだわ…”
“ウーン…家が買える値段だね。それは困ったものだ、けれどカレン達に返済義務はないんだろ?姉さんが遠くに逃げてしまうわけにはいかないの?”
“姉は優しいの、私や兄と違って母の優しさを独り占めして生まれて来たような、とっても優しい心の持ち主だから兄を見捨てるなんて考えられない、そういう性格なのよ”
“カレンは優しくないの?”
“私は自分が好きな人にはとてもやさしくなれるけど、キライな人には優しくできないわ。これではいけない気もするけど、できないものはできないのよ”
“…それで充分に正常さ。でも姉さんは借金のモンダイをどう解決するのかな?”
“とくに良策はないのよ。私は警察に駆けこんですべてを打ち明け、麻薬グループをぜーんぶ逮捕したらいいと提案したのよ”
“そうしたら兄さんも刑務所行きだけど、姉さんはどう考えているんだろ?”
“もう、それしかないかも知れないだって”
“そうか、姉さんも追い詰められたんだ”
“優しい心が困難を解決できるなんてことは安っぽいドラマの世界だわ。だれもがメデタシなんてありえないことなのよ。必ず弱い者が痛い目に逢うのよ。これが自然界の法則なんだから…”
“君って、心が強いね”
“でもまだ弱いと思うわ、もっともっと強くなりたい!”
トビ色の瞳に憂いを含みながら真剣に話す彼女には引きこまれるような魅力を感じた。なんとか助ける方法はないかと考えたが、カレンの考えどおり警察に相談するのが一番だと思った。麻薬のドロ沼から抜け出すにはキレイゴトではすまないのだ。この兄妹の前途には暗いものが待ち受けているとしか想えず、鉛のように重く不吉な想像が頭の中をかけめぐった。
飛行機は狭くて混んでいた。まずシカゴに飛び、そこからマサチューセッツ行きに乗り換えるのだが、ウンザリするほど時間がかかる。それだけに隣りに座った女性の存在はとても輝いた。
“キュークツな長旅でも、ひとりでなかったら時間が速く経つんだよね”
そんな話題から会話を始める。
“そうよ、ひとりで4時間もじっとしてるのは退屈なうえに疲れるものね”
“で、さっきから手に持っているケイスだけど、楽器?クラリネットかな?”
“オーボーなのよこれ”
“オーボー…?”
“小さいときからやっているの、今は地方のオーケストラで夜だけ練習してるのよ”
“オーボーって、あのベートーヴェンの交響曲3番の2楽章でストリングのあとにソロで奏でるあの楽器のことだよね?”
“えっ?あ、エロイカのことね?…そうよ、どうして?”
“あれは良い!”
“好き?・・・”
“好きなんてもんじゃないよ、あんなすごいものはめったにないよ。とくにフルトヴェングラーがベリンフィルを指揮したのが好きでね、2楽章が始まると胸がジーンとなって感動の世界に引き込まれるんだよ”
“ちょっと沈痛で陰鬱だけど、素晴らしく清潔で理知的で…”
“そう! それだよ、それ!”
“日本でもフルトヴェングラーは有名?”
“スーパースターだよ”
“まあ、うれしい!”
“フルトヴェングラーの演奏は超スローで行くよね、だから交響曲の9番はウンと長い。あの LPレコードをひっくり返さず通しで聴くのが日本のファンの夢だったんだよ。だから、CDの録音可能時間を決定するときに9番がスッポリ入るというのが第一条件だったんだよ。そしてそれは実行されたんだ、と雑誌で読んだよ”
“ステキな話ね!知らなかったわ。父が聞いたら大喜びして抱きついちゃうようなストーリーよ”
“君は愛されたんだね、お父さんに…”
“そうなの、だからオテンバよ”
窓際に座った彼女との話がはずんだ。こだわりのない性格らしく、まっすぐな返事が返ってくる。
“ところで、そろそろ、ぼくの美しいフレンドの名を聞いてもいいですか?”
“あっゴメン、私はカレン、カレン ユンハンスといいます…”
“ぼくはイチローだ、逢えてうれしいよ”
そう言いながら右手を差し出すと彼女はしっかりと握り返してきた。
“日本ではね、見知らぬ人達がこんなふうに早く打ち解けることってメッタにないんだ。アメリカでは、逢えて嬉しいと言ってアイサツをするけど日本人にはとても言えないセリフなんだ。どこか心を素直に表現できない空気がボクの国にはあるんだな”
“そう…自信のない人が多いのね。でもドイツ人の間にもそんな空気はあるのよ、アメリカってなんだか特別にオープンな感覚になってしまう国なのね”
“心がオープンになれないのは自信がないからというわけ?”
“そうよ、自分を信じられないから他人をも信じられないということよ。だから自分の本心は他人に知られたくない。隠しても仕方がないのは判っていても隠してしまう。だからますますありのままの自分から遠ざかってしまう…他人の目を気にして生きる人はどうしても自信を失ってしまうものだわ”
“うーん、なんだかぼくの内面のことを言われてるみたいだ…”
“ノー、あなたは内向的な性格には見えるけれど、とても心が開放されているから心配ないわ…私の兄なんて、もうたいへん…”
“兄さんがどうしたの?”
“…麻薬中毒なの…”
そう言うなりカレンの表情はドーンと暗くなった。アメリカには麻薬中毒者が多いので驚きはしなかった、が、彼女の妹としての心労には痛ましいものを感じた。
“…それで、兄さんは今どこに?入院とかしているの?”
“病院なんて行く気はなくて、姉のアパートに住みついて麻薬仲間とばかり集まって遊んでばかりいるの…”
“カレンと姉さんがどんなに言っても聞こうとしないというワケだね?好きなの?兄さんを?”
“キライだったわ…気が弱いくせに妹の私をイジメてばかり…ちょっとしたことで怒って、すぐに蹴るの。やつあたりのターゲットはいつも私だった…”
“今もまだ嫌い?”
“トラブルメイカーなのよ麻薬患者は。心は弱いくせにミエを張って、凶暴だし、少しも尊敬できる性格ではないのよ。私と兄をつないでいるのは兄妹という文字だけなのよ、ほかにはなにもない…”
“じゃ、ほっとくしかないんだ、離れていれば実害はないんだろ?”
“今まではね・・・。でも姉がどうしても兄のことで相談があるから来るようにって言うのよ。だから私は夏のアルバイトを休んでマサチューセッツに行くところなの…”
“君は大学生?”
“うん、デイヴィスのね…心理学専攻なの”
“で、姉さんはカレンにどんな相談だろ?”
“兄がね、悪い仲間からオカネを借りているの、それが10万ダラ以上という大金で、私たちにはとても払えない金額なんだわ…”
“ウーン…家が買える値段だね。それは困ったものだ、けれどカレン達に返済義務はないんだろ?姉さんが遠くに逃げてしまうわけにはいかないの?”
“姉は優しいの、私や兄と違って母の優しさを独り占めして生まれて来たような、とっても優しい心の持ち主だから兄を見捨てるなんて考えられない、そういう性格なのよ”
“カレンは優しくないの?”
“私は自分が好きな人にはとてもやさしくなれるけど、キライな人には優しくできないわ。これではいけない気もするけど、できないものはできないのよ”
“…それで充分に正常さ。でも姉さんは借金のモンダイをどう解決するのかな?”
“とくに良策はないのよ。私は警察に駆けこんですべてを打ち明け、麻薬グループをぜーんぶ逮捕したらいいと提案したのよ”
“そうしたら兄さんも刑務所行きだけど、姉さんはどう考えているんだろ?”
“もう、それしかないかも知れないだって”
“そうか、姉さんも追い詰められたんだ”
“優しい心が困難を解決できるなんてことは安っぽいドラマの世界だわ。だれもがメデタシなんてありえないことなのよ。必ず弱い者が痛い目に逢うのよ。これが自然界の法則なんだから…”
“君って、心が強いね”
“でもまだ弱いと思うわ、もっともっと強くなりたい!”
トビ色の瞳に憂いを含みながら真剣に話す彼女には引きこまれるような魅力を感じた。なんとか助ける方法はないかと考えたが、カレンの考えどおり警察に相談するのが一番だと思った。麻薬のドロ沼から抜け出すにはキレイゴトではすまないのだ。この兄妹の前途には暗いものが待ち受けているとしか想えず、鉛のように重く不吉な想像が頭の中をかけめぐった。
2013年02月19日
まよいが・・・
市 (2013年02月19日 13:07)
│Comments(2)
│語りのプラザ
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
面白~いです〜。ワクワクさせて頂いて
おります。
ありがとうございます。(=^ェ^=)
薩摩小雪
じつは、今朝考えて「あんまオモシロクない」
と気がついて、連載を止めようかと想ったの
ですよ(>_<)
あの時の自分と今のワシではギャップが
ありすぎてね〜(; ;)かといって書き直すと
すごく不自然になっちゃうし(;。;)オロオロ
まあ、70になって自分の昔の作品がイイ
なんて想ったとしたら酷い痴れ者で^_^;
でも、皆さん&小雪さんが喜んでくれるのなら
いいかと(*^_^*)
なので続きをいきまぁ〜す!(^^)!
面白~いです〜。ワクワクさせて頂いて
おります。
ありがとうございます。(=^ェ^=)
薩摩小雪
じつは、今朝考えて「あんまオモシロクない」
と気がついて、連載を止めようかと想ったの
ですよ(>_<)
あの時の自分と今のワシではギャップが
ありすぎてね〜(; ;)かといって書き直すと
すごく不自然になっちゃうし(;。;)オロオロ
まあ、70になって自分の昔の作品がイイ
なんて想ったとしたら酷い痴れ者で^_^;
でも、皆さん&小雪さんが喜んでくれるのなら
いいかと(*^_^*)
なので続きをいきまぁ〜す!(^^)!
2013年02月19日
乙女通信
市 (2013年02月19日 07:31)
│Comments(4)
│てっぽ
ここ数ヶ月週1のクラブマッチが練習代わりですっかり怠けております。 が、暖かくなって屋外マッチ等が開催されはじめると月千発は必要で、旦那と二人分だとその2倍、しかもメジャーロードで多目にお粉を使うので補充しないと1年ももたないかもしれません。 はやくブレットもゲットしなくっちゃ! 先週からモンゴルのサイトはメンテ中のままです。 フロリダオープンで撃ってきた友人は今日Hodgdonの工場に立ち寄ってみたらしいんですが、小売りはしてくれなかったとのこと。 そ、それより、CA州ではドえらい銃規制法のプロポーザルがされていますよぉ!たとえば「500発以上ライブアモを所有している」「ハローポイントブレットもしくはそれに類似したものを所有」「10発以上入るマガジンの製造、販売、所有」等等、、、これらに該当する人達は犯罪者になるわけです。しかも「アモ購入するのはバックグラウンドチェックに合格した人のみ」もちろんこのバカバカしい案がロゥになったらですけど。 最悪の案です! リヴォルバーの名人でもアモ所有数を制限されたら困りますねぇ。 でもこの案にはリローディング関連の事には触れていないんですよね。 ってことは常時500発を超えない程度にアモ作りやっていればオッケー牧場ってこと?! やっぱり射撃に縁がない人が銃規制法をつくろうとするとへんちくりんな内容になるんですね。 (詳細はコチラ→http://offgridsurvival.com/californiatobansemiautomaticguns-confiscatefirearms/) NY州のUSPSAマッチってどーなってるんでしょうね。ホントにLIMITED7ってディヴィジョンも作らないと?! 若い頃は都会のNYに住みたいと思ったこともありますが、こんなに銃規制が厳しくなってはもはや住めません。 Elanさんのカキコにもらい泣きしながら、しばしブレットプラーで出来損ないアモちゃんをバラしてブレットを集めます♪
リリコ
市より
ひどぉ〜い(;O;)(>_<)(×_×)(-_^:)
バックグラウンドチェックは支持する
けんど、それでOKならフルオートでも
原爆でも持たせてほし(゜◇゜)ガーン
ワッシもブレットプラーで抜かなきゃ〜
でもそのヒマがない(*^^)
だい市、撃つヒマもないんよ(^_^;
今、ヴィェラさんが来てパンパンパンパン
バンバンとムーヴァーを撃ってるのが
600m彼方から聞こえているよ。
ワシはこもって仕事だよ(;O;)
今月はムリだな、撃てないな(;。;)
リリコ
市より
ひどぉ〜い(;O;)(>_<)(×_×)(-_^:)
バックグラウンドチェックは支持する
けんど、それでOKならフルオートでも
原爆でも持たせてほし(゜◇゜)ガーン
ワッシもブレットプラーで抜かなきゃ〜
でもそのヒマがない(*^^)
だい市、撃つヒマもないんよ(^_^;
今、ヴィェラさんが来てパンパンパンパン
バンバンとムーヴァーを撃ってるのが
600m彼方から聞こえているよ。
ワシはこもって仕事だよ(;O;)
今月はムリだな、撃てないな(;。;)
2013年02月19日
★出逢い★ 紫電の炎
市 (2013年02月19日 03:05)
│Comments(1)
│語りのプラザ
★出逢い★
“こう言っては気に障るかもしれませんが、あなたってちっとも強そうには見えませんわ。小柄なのに、あんな大きな黒人を一瞬のうちに倒すなんて信じられませんわ…”
バスの中で、隣に座った彼女はそんなふうに話しかけてきた。テレビの「グッモーニン アメリカ」に毎朝出てくるジョンロンドンのようにふくよかで賢そうな女性だった。そのふっくらとしたクチビルにはマブシーものを感じた。21才という感じだった。
“ウン、ちょっとしたワザでね、特に相手が無知で不用心だったからビートできたんだよ。格闘技を少しでも学んだ相手だったら簡単にはいかなかったよ”
“するとあなたは日本人で、カラテができるというわけなのですね?”
“うん、いや、カラテでなくってFBIの格闘技と日本のケンポーを混ぜたものだよ”
“まあ、FBI?じゃあ、あなたはFBIのエイジェントなのですか?”
“いや、ただのフォトグラファー、FBIとは友達付き合いなだけさ”
“そぉー…私も習いたいなあ、護身術…”
“ダメダメ、1週間とかそこらで覚えたものじゃなんの役にも立たないよ。2年くらいはミッチリと訓練しなければ実用にはならないな。だいたい、争いには近付かないのが最良の護身術だしね”
“…でも、人ひとりが生きている間には、避けられない争いってあるものでしょう? そんなときのために強くありたいって、これは父がいつも言っていたことなのよ。私もそう思うの。それに格闘技を知ればピストルの使い方も上手になれるのでしょう?”
“ピストルだって?持ってるの?・・・ハンドガンを持っているの?”
“うん、父がね、いつかは役に立つはずだから持っているようにってくれましたの”
“じゃ、今も持ってる?”
“イエス、預け入れたスーツケイスの中にありますわ”
“じゃ、さっき襲われたとき使えたわけだ”
“はい、オカネを出すフリをしてピストルをひっぱり出すつもりでしたの・・・”
“なぁんだ、ぼくは君を助けたと思って、いい気持ちだったのになぁ…”
“でも、あなたが私を助けてくれたという事実にはゼンゼンかわりないですわ。私が人を撃つなんてできるかどうか判らないのですから感謝しています。ほんとうに心から嬉しいのよ…父はね、日本人が大好きだったの。今度戦争をするときはイタリー抜きでやろうというジョークをみんなに言ってたわ。日本人は信頼できるって信じていたの”
“つまり、お父さんはドイツ人だね?”
“そうよ、アメリカに移民して、私たちをしっかりと育ててくれたのよ”
“もう、いないの?”
“ヴェトナム戦争でね、軍医だったのよ、でもロケット弾が近くに落ちて負傷したのね、ようやく命は助かったのですけど、その時の傷が元になって内臓が冒され、去年に亡くなったのよ・・・”
父親の記憶をたどる彼女はいつしか口調が親密な感じになっていた。
“そう…残念なことだったね・・・”
“ねぇー、あなたはどこにいらっしゃるの?それともどこかに帰るところ?”
“目的はヴァジーニアだけど、その前にマサチューセッツに仕事で5日間寄るんだよ”
“あらっ? ユナイテッドの571便で?”
“えっ? そうだけど…まさか君も…?”
“ビンゴー! そのマサカよ”
“ふーん…”
“フーンって、私と一緒じゃイヤ?”
“とーんでもない、こんなに魅力的な人と離れたいと思うのはイジケ魂の超ヒネクレ者だけだろうと想うよ”
“まあ、私は地味なガールなのに、魅力的だと思ってくれるの?”
“ファッション的な美人じゃないかも知れないけど、暖かそうで、しかも、とても賢い感じだよ。化粧が薄いし爪も短くて好きなタイプだよ。バカなオンナはキライでね…”
“あら、どうして爪の短いのがいいの?”
“働きものの証拠だからね”
“化粧の濃いのはバカなの?”
“外面を繕って男心を惹こうという女は利口とはいえないね”
“でも、男性って化粧した女性を好きなのではないの?”
“うん、愚かで美意識の薄い男は化粧したオンナを好むね”
“じゃあ、あなたは利口だから化粧女を嫌うというわけ?・・・”
“おおう、つっこみが鋭いね〜”
“うふふふ、ごめんなさ〜い・・・”
“ぼくはそんなに頭は良くないけれども、自分の身を飾ることにオカネと時間を費やす人を好きにはなれないんだよ”
“あら、飾ることがどうしていけないの?”
“飾ることは良いと想うよ”
“・・・・・・?”
“ただし飾るのは自分の心にしたいね”
“・・・そう・・・”
“・・・どうしたの? 気に障った?”
“いえ・・・うん・・・”
その時、バスは飛行場に着いた。
“私たち一緒の旅ですから、隣どうしの席にしてくださいね?”
彼女はチェックインカウンターの係に自分からそう頼み、こっちを向いて恥ずかしそうに笑った。
…これは楽しいことになったぞ、たまにはこんなことがなくちゃつまらんぜ…
そう思いながら、肩のあたりまで伸びて内側にちょっとカールしている栗色の髪を眺めた。こんなにしっとりとして気品のあるアメリカ娘に逢うのは12年のアメリカ生活で初めてだった。
“こう言っては気に障るかもしれませんが、あなたってちっとも強そうには見えませんわ。小柄なのに、あんな大きな黒人を一瞬のうちに倒すなんて信じられませんわ…”
バスの中で、隣に座った彼女はそんなふうに話しかけてきた。テレビの「グッモーニン アメリカ」に毎朝出てくるジョンロンドンのようにふくよかで賢そうな女性だった。そのふっくらとしたクチビルにはマブシーものを感じた。21才という感じだった。
“ウン、ちょっとしたワザでね、特に相手が無知で不用心だったからビートできたんだよ。格闘技を少しでも学んだ相手だったら簡単にはいかなかったよ”
“するとあなたは日本人で、カラテができるというわけなのですね?”
“うん、いや、カラテでなくってFBIの格闘技と日本のケンポーを混ぜたものだよ”
“まあ、FBI?じゃあ、あなたはFBIのエイジェントなのですか?”
“いや、ただのフォトグラファー、FBIとは友達付き合いなだけさ”
“そぉー…私も習いたいなあ、護身術…”
“ダメダメ、1週間とかそこらで覚えたものじゃなんの役にも立たないよ。2年くらいはミッチリと訓練しなければ実用にはならないな。だいたい、争いには近付かないのが最良の護身術だしね”
“…でも、人ひとりが生きている間には、避けられない争いってあるものでしょう? そんなときのために強くありたいって、これは父がいつも言っていたことなのよ。私もそう思うの。それに格闘技を知ればピストルの使い方も上手になれるのでしょう?”
“ピストルだって?持ってるの?・・・ハンドガンを持っているの?”
“うん、父がね、いつかは役に立つはずだから持っているようにってくれましたの”
“じゃ、今も持ってる?”
“イエス、預け入れたスーツケイスの中にありますわ”
“じゃ、さっき襲われたとき使えたわけだ”
“はい、オカネを出すフリをしてピストルをひっぱり出すつもりでしたの・・・”
“なぁんだ、ぼくは君を助けたと思って、いい気持ちだったのになぁ…”
“でも、あなたが私を助けてくれたという事実にはゼンゼンかわりないですわ。私が人を撃つなんてできるかどうか判らないのですから感謝しています。ほんとうに心から嬉しいのよ…父はね、日本人が大好きだったの。今度戦争をするときはイタリー抜きでやろうというジョークをみんなに言ってたわ。日本人は信頼できるって信じていたの”
“つまり、お父さんはドイツ人だね?”
“そうよ、アメリカに移民して、私たちをしっかりと育ててくれたのよ”
“もう、いないの?”
“ヴェトナム戦争でね、軍医だったのよ、でもロケット弾が近くに落ちて負傷したのね、ようやく命は助かったのですけど、その時の傷が元になって内臓が冒され、去年に亡くなったのよ・・・”
父親の記憶をたどる彼女はいつしか口調が親密な感じになっていた。
“そう…残念なことだったね・・・”
“ねぇー、あなたはどこにいらっしゃるの?それともどこかに帰るところ?”
“目的はヴァジーニアだけど、その前にマサチューセッツに仕事で5日間寄るんだよ”
“あらっ? ユナイテッドの571便で?”
“えっ? そうだけど…まさか君も…?”
“ビンゴー! そのマサカよ”
“ふーん…”
“フーンって、私と一緒じゃイヤ?”
“とーんでもない、こんなに魅力的な人と離れたいと思うのはイジケ魂の超ヒネクレ者だけだろうと想うよ”
“まあ、私は地味なガールなのに、魅力的だと思ってくれるの?”
“ファッション的な美人じゃないかも知れないけど、暖かそうで、しかも、とても賢い感じだよ。化粧が薄いし爪も短くて好きなタイプだよ。バカなオンナはキライでね…”
“あら、どうして爪の短いのがいいの?”
“働きものの証拠だからね”
“化粧の濃いのはバカなの?”
“外面を繕って男心を惹こうという女は利口とはいえないね”
“でも、男性って化粧した女性を好きなのではないの?”
“うん、愚かで美意識の薄い男は化粧したオンナを好むね”
“じゃあ、あなたは利口だから化粧女を嫌うというわけ?・・・”
“おおう、つっこみが鋭いね〜”
“うふふふ、ごめんなさ〜い・・・”
“ぼくはそんなに頭は良くないけれども、自分の身を飾ることにオカネと時間を費やす人を好きにはなれないんだよ”
“あら、飾ることがどうしていけないの?”
“飾ることは良いと想うよ”
“・・・・・・?”
“ただし飾るのは自分の心にしたいね”
“・・・そう・・・”
“・・・どうしたの? 気に障った?”
“いえ・・・うん・・・”
その時、バスは飛行場に着いた。
“私たち一緒の旅ですから、隣どうしの席にしてくださいね?”
彼女はチェックインカウンターの係に自分からそう頼み、こっちを向いて恥ずかしそうに笑った。
…これは楽しいことになったぞ、たまにはこんなことがなくちゃつまらんぜ…
そう思いながら、肩のあたりまで伸びて内側にちょっとカールしている栗色の髪を眺めた。こんなにしっとりとして気品のあるアメリカ娘に逢うのは12年のアメリカ生活で初めてだった。