2011年08月25日
LIMCAT(SATマガの記事より)
市 (2011年08月25日 15:49)
│Comments(1)

「チャレンジャー」という9mm拳銃をミッキーから譲り受けた。ナウリンが天才シューターであるミッキーのために作った特別製の拳銃だった。
STIフレイムに6インチのロングスライド。ぼくとつな佇まいというか、荒いパーカライズ仕上げが「剛の者」という風情。
こいつは味もそっけもないかも知れない。だが戦場の太刀、または実戦的な長巻という雰囲気を漂わせる。逞しい戦闘力が横溢したその剛銃、平和時には人々にうとまれるだろうがワシは惚れている。
これを玩んでいるうちに、ワシはSTIをベイスにしたスティル チャレンジ カスタムが欲しくなった。
よし、今ジョニーに電話しよう。
こうしてワシはリムキャットを得ることになってしまったよ。
うーむ、これは理解に苦しむことだな~
と、ワシは考えてしまう。
だってワシにはSIG X5という立派なスティル チャレンジ用のカスタムがあるんだからね。
ドイツSIGが作ってくれたショートスライドの銃で世界に1挺という特製だ。スライドとバレルの予備は二組もあり、数年間の試合に備えるだけの体力がある。
これで、練習においては100秒を切ることもある。100秒を切れるということは、遠からず70才になるという市老にとっては大したことなのだ。このX5にはすっかり満足しており、その存在は素敵な妻のように歓びだ。
なのに浮気モノのワシは突然のように新しいカスタムを注文した。
リロン的には不必要なカスタムをオーダーしたわけで、ここんとこが自分でも理解できないわけだね~ 、うーむ・・・。
どうしてそうなったのか想い出してみた。
どうも、ある引き出しを開けたことから始まったようだ。そこにはSTIのフレイムだけが入っていた。グリップもなければハンマーだのスィアなどのパーツもいっさいナシ、生のフレイムだけだった。はるかムカシにSTIを訪問したときにもらって忘れていたものだった。
さて、法律で拳銃といえばフレイムを差すわけで上のスライドは無関係だ。そのわけは登録のためのスィリアルナンバーがフレイムに打たれているからだ。なのでフレイムさえあれば合法的に1挺の拳銃ができる。再登録の必要などまったくないわけだナ。
んで、フレイムを眺めていると
“どんなテッポ作ったろか・・・”
と想像できてなかなか楽しい。
ちなみに、わがキャリフォニア州ではSTIを買うのは難しい。STIはこの州では禁止なのだ。難しいというのは可能という意味でもある。つまりオマワリさんは買えるわけで、彼らから後で買い取るというカタチなら可能というわけで、このゆるやかさはサスガ米国だね。
ワシはSTIが大好きだ。
1911系だったらこれしかないと想っている。
理由はタマがどっさり入るからだね。
砂漠ではハンマーとフレイムの間に砂が溜まるのでグロックのほうが役立つが、アッシにゃイスラムさんと事をおこす気持ちなどござんせんからこれでええんでござんすよ。STIの方が遠くを撃つには向いてるんでござんすしね~。
銃というものは撃てば撃つほどに射撃の難しさが解ってくるもので、銃を持って闘うとなればやはりタマ数は多いほどよいという気持ちになってくる。人間という生き物は身体のどこにでもタマが当たれば死ぬというものではなく、急所をヒットしないかぎりは即死しないわけで、なかなか一発で倒すことはできないものと考えといたほうがいい。
拳銃で闘うということはライフルとは違って距離は近いと想定されるわけ。じっさいガンファイトの距離は2mから6mあたりが多いというデイタもある。この距離で相手も拳銃を持っていたら相打ちになる可能性もある。こっちが1秒先に撃ったとしても、急所を外したら相手も撃ってくるわけだ。なので至近距離では初弾で悪漢を殺す必要がある。即死させなかったら相手も撃ってくるのだ。
だからタクティカル射撃では徹底的に初弾の能力を上げることになる。精度精度精度、そして次にスピードだ。そして強いマインドというわけだね。
で、いくら訓練を積んでも本番でその通りに撃てるとは限らない。だから本番では連射をする。ダダダッっと3発くらいはイッキに撃つ。1発で倒すという技術を身につけ、そのように撃つわけだが、それを信じ込むわけにはいかない。だから連射で倒すということだね。
で、普通の1911でこれを2回やったらもう残弾がやばい。なにしろワシとしては1人に対して5発は撃ち込もうと考えているからね。いくらマグチェンジが早くできるといっても約1.5秒はかかる。6m以内ではこの空白は命とり、この間に相手は弾倉が空になるくらい撃てるしシロートでも4発は撃ってくるだろう。
「4人の悪人に3~5発の連射を浴びせたい」
これが拳銃に対するワシの希望なんだね。
STIはこの要求を満たすわけだ。
で、そこで、ワシは9mm弾を選ぶ。
理由は、より多弾数だから。
.45ACPや.40キャリバーがガンファイトに適す、とFBIは結論している。
とはいえ、.45口径でも急所を外すと即倒はしないというケイスもゴマンとある。
.45口径で頭を撃った場合でも目よりも上の大脳に当たると倒れなかったという例は多く、鼻のあたりを.22口径で撃てば即死するという事実もあるわけだ。
銃はなんであれ急所を撃てば瞬時に倒せ、大口径でも急所でなかったらすぐには死なないというのが本当のところなわけだ。
なのでワシは9mmを選ぶわけ。
また、サヴァイヴァル用のためのタマとして考えても9mmがよい。その理由は、自分が持って出られるタマにはかぎりがある。ほんとうは千発ほしいが重くて大変すぎる。だから500発あたりがいいところだろう。現実的には5本の弾倉に20発ずつで百発、そして50発の箱入りが四つないし6箱だろう。
タマが少なくなるということはおそろしいことだ、なので補充は常に考える。いったん家を離れたとして入手しやすいのはどのタマか、と想うに9mmが浮かぶ。たとえば民間の屋外射場に行けば地面に9mmの(撃てる)タマがよく落ちており、ヤッキョウの割合もうんと多い。スティル チャレンジやビアンキカップの練習射場にいけば9mmのライヴを一箱集めるのに苦労はいらない。信じられないかも知れないが、野原で射撃を楽しんでいる連中もやたらと新品のカートリッジを落として拾いもしないで帰るものだ。これが自衛隊だったら新聞に載るがアメリカ人にはそんな感覚がない。ちなみにワシ自身が射場で撃ち、翌日にまた行ったら自分のタマが落ちていた、なんてこともよくある。ウチにくるお客様シューターたちも、日本人やポリスを含めてよく落としていく。エアガンのBBの値段の高いヤツみたいな感覚しかないわけだ。まちがって焚き火に入ることがあり、バーンと音がしてオーッと驚くことがあるがヤッキョウが破裂するだけで弾丸がビューンと飛んでいくことはないので、まあ2mも離れていれば安全だ。でもヤッキョウの破片が目に刺さったら失明する可能性はあるがね。
ま、このようにあちこちに9mm弾が落ちている光景をヒンパンに観ることでワシの心は9mm寄りとなっていったわけだね。入手しやすいタマというのは良い選択かと。
そんな理由から、ワシはいつも枕の下にある38スーパーコンプのSTIのカスタム「ブラックウィドウ」は家での防衛専用と考えるようになった。なにかの理由で即座に家を飛び出すことを考えると、コイツを握って飛び出すわけにはいかないのさ。なにしろスーパーコンプを撃つシューターなんて1万人に1人いるかといった割合でどこにも売ってないしね。なので枕の下の銃も9mmであるべきだと想うわけ。
と、いろいろと理屈をつけるが真実を言えば「ただ新しいテッポが欲しいだけ」これに尽きるんだけどナ。笑
“ワシもリムキャットみたいなクールルッキン(かっこええ)な銃でスティールを撃ってみてえもんだな~・・・”
とワシはジョニーに話したよ。
“おおう、そんならフレイムさえ送ってくれたら特急で作るけどね~”
と穏やかそうな性格のジョニーは即答してくれた。数々の有名シューターがリムキャットを使っているというのに彼には威張った様子などみじんもなくて好感がもてる。
“なるたけ軽くしてな~”
と、頼んでおいた。
ジョニーは早々と完成させて送ってくれた。
まず、その格好良さに目を奪われる。
X5が良妻賢母ならリムキャットは酒場で知り合った派手気味の美人かな・・・。オシャレが上手くてキレイキレイなのでついフラフラと付いて行くんだね。笑。ショクン、性格の異なる妻を二人持つということはとても素晴らしいことだよ、あっ、失敬シッケイ、妻ではなくてレイスガンのマチガイね、誤解しないでな。
そしてその軽さがなによりも嬉しい。スライドをテッテ的にくりぬいて軽量化され、長いが軽そうなアルミのコンペンセイターが付いている。この新しい妻はよく痩せておりバンビのように駆け足が早そうだ。
それが届いたのがビアンキカップの直前だったので、ちょっとだけ試射をし、カップが終わってから本格的に撃ち始めた。
まずはタイトグループという火薬が3.5グレイン入ったX5用の弾を撃ってみる。するとかなりジャムが起こった。スライドの動きがあまりスムーズではない。
出来たばかりのカスタム拳銃が初めから順調に動くことはあまりない。
たいていは火薬を多めに入れたタマを千発くらい撃つことで動き始めるものだ。ジョニーも千発の暖機運転をしてほしいと言う。
そこでビアンキカップのタマを撃つ。これを200発ほど撃ったら急に動きはスムーズになった。そこでまたX5のタマを撃つ。かなり良くなったがやはり250発中2~4回のジャムが起こる。この場合のジャムの種類は「ストーヴパイプ」と呼ばれるものでケイスがイジェクションポートに挟まるという状態、これは火薬量の不足かリコイルスプリングやハンマースプリングがタマに対して重すぎるという原因なことが多い。たいていは火薬量を増やせば解決する、がそうなると銃のキックは強くなりスピードが出しにくくなる。シューターにとってここらの兼ね合いが難しく、面白い挑戦でもあるわけだ。そこで火薬を3.7グレインまで増やしてみる、0.2グレインという増量は撃ってみてキックが大きくなったと判るほどの量ではない、が、銃がジャムらなくなるまで増やすにはこの単位で増やすとよい。
はたして、3.7グレインで千発撃って故障しなくなった。クリーニングなしの連続千発というのは、その銃が信頼できるかどうかの条件ではないかとワシは想っている。
ところで、
ビアンキカップにはパワー規制があるがスティル チャレンジは自由だ。なので選手たちは「ギリギリの弱弾」で勝負に挑む。
たとえば9mm弾の場合でよく使われるのは115グレインという重さのブレットで、これがファクトリー弾では秒速1300フィートあたりで飛ぶ。これをビアンキカップ シューターは1100フィートあたりまで減速させて反動をへらす。これ以下だと違反となるわけだ。
で、スティル チャレンジの場合はもっと薬量をへらせる。たとえばタイトグループという火薬をビアンキカップでは4.2グレイン入れるが、スティル チャレンジでは3.5グレインあたりまでへらし初速は1000フィートを切る。このような弱いタマだと普通のオート拳銃ではジャムしてしまうので、各所を磨き込んだりスプリング類を弱くしたりと工夫する。オートの場合はスライドをくり抜いたりして軽量化をはかり動きやすくするわけだ。
「リムキャットを撃つならタイトグループを4.4グレイン入れてモンタナゴールドの95グレイン弾を飛ばせ、このさいカートリッジの全長は1.120インチにすること」
とジョニーはメイルで知らせてきた。
95グレインというのは9mm弾としては最も軽い弾丸で、これはちょっと反動が軽いというわけだ。今のところワシは115グレイン弾で撃っているが、やがてはそれを試そうと想う。
タイトグループ3.5グレインで115グレインのブレットを飛ばす、というのがワシの基本だが銃によっては3グレインまで減らすことが可能だ。リムキャットにはこれを期待していたので4.4グレインとは多いなぁ~と感じている。でもじっさいは4グレインで動くのではないかと想う、というのはX5がそれでイケテルからだ。
さて、リムキャットの撃ち心地だが、X5と同等な良さがあると想える。
ただX5よりもハネ上がりは少ない、が振動感が強いと感じる。反動は軽いのに、振動が加わるような気がするわけだ。これはスライドの動きが少し速いからなのかもしれない。だが、これがマイナス要因となるものではなく、むしろゆくゆくはもっと火薬を減らしても動くようになるという予感につながるのだ。
さてさてアホウなシューターの中には、射撃の連射速度と反動とは関係ないと主張するヤツがいる。が、これは大変な勘違いだ。
反動は少ないほど連射が速くなるのはあったり前田のクラッカーだね。
エアガンより実銃のほうが遅くなる。その理由は実銃はエアガンより重いために慣性の法則によってドロウがわずかに遅くなり、トゥリガープルも重いのでここでまた遅くなる。
そしてエアガンと実銃との大きな違いはなんといっても「反動」にある。反動とは弾丸が飛び出すと反作用で銃が真後ろに後退するという現象。発射のたびに銃口が上を向くのはグリップが銃身より下にあるからだ。もしもバレルの
真後ろを握ることができたら銃口は上を向かず反動は真後ろにくるし、バレルより上を握れば反動は下に逃げるようになる。銃を逆さにして撃てば銃は「ハネ下がる」わけだナ。
信じがたい話だが、銃を逆さにして撃つと反動はやはり上に行くと言った自称ガンリポーターがいた。まあこいつは言うことなすこといちいちがバカの権化ではあったけどね~
で、さて、この「銃口のハネ上がり」というヤツが連射のスピードを鈍らせる一番の原因といえる。上がった銃口が降りてくるまでの時間差を考えれば撃ってみる必要もあるまいよ。
反動と連射速度とは関係ないというヤツは、44マグナムを連射したこともないのだろう。
あの銃でラウンダバウトを3秒以内に撃つとしたら至難のワザだろう。初めの二つをババンと
撃つわけだが44マグだとドッガン、、ドッガンと速度が落ちる。これは反動で銃が上を向き、身体も後ろに押されるため再度撃つ態勢にもどすのに時間がかかるからだ。
つまり反動は小さいほど連射は楽になるということ。レイスガンというのは、いかに反動を抑えるかという課題に挑戦した銃だともいえる。
さて、付け足しておくが、これらとはべつに銃に秘められた精度を出し、スピードを上げられるかどうかは「シューターの腕前」にかかってくるものだ。解りやすくいえば「世界一反動の軽い銃をもった中級シューターよりも
反動の強い銃を使った上級シューターのほうが巧い」ということ。もちろんこれは銃の口径が同一という条件下でのハナシ。
とはいえ、上級シューターが反動の強い銃を撃っていると限界がきてしまうのも事実。同じレヴェルなら反動の軽い銃を持った方と勝利の女神はデイトしたがるわけね。
なので反動を減らすためのカスタマイズをする。この発展によってシューター達の限界は破られてゆくわけだ。
ほんでもって、
競技射撃と実際の銃撃戦はかなりちがうものだ。試合は負けても酒を飲んで笑っていられるが、戦闘で負けたら土化するしかない、笑。銃撃戦は射撃能力よりも思考力が大切となり射撃スタンスも自分で選ぶことになる。だが、ただひとつの重要な共通点がある、それは「初弾の正確さと速さが大切」ということだ。
銃を撃てば撃つほどに初弾の大切さが身にしみて解ってくる。
そして、じっさい初弾というのはけっして易しくない。難しすぎる、と言っても過言ではあるまいと想う。
★市物ホルスタ★
どうも初弾が遅いな~・・・
もともとウスノロな性格のワシにとってこれが悩みなんだナ。
SIG X5での練習ではショウダウンでの初弾が1.10秒前後で撃てていたのにリムキャットになってから1.3秒あたりとなり抜きそこないも多くなった。ちなみに速い連中の初弾は1秒以内とソーバが決まっている。だから遅いのはリムキャットのせいではなくワシがヘタだからであり、言い訳があるとしたらホルスタの違いもある。
X5ではどうして速かったかというと、それはホルスタのせいだった。
SIGのホルスタは自分で改造したもので、特徴はといえば、グリップからハンマーを結んだ線がよりターゲットに向いているというものでエゲツないほど早撃ちに特化したものだった。
このホルスタによって96秒という自己記録を出せたわけだ。
速いタイムは速い初弾から生まれる。これがスティル チャレンジの鉄則といえる。
ビアンキカップは精度を競い、スティル チャレンジはスピードを競う。
ビアンキカップは4種目のまったく異なったステイジに対応する必要があるが、スティルはどのコースも似かよっている。5枚の鉄板ターゲットがあり、それらをすべてヒットするまでのタイムを競うわけだ。外したら再び撃てばよく、5回撃って1番悪いタイムを捨てることができる。このためにシューターたちはコケるのを覚悟でギャンブル撃ちをする。両手を挙げた態勢からドロウして3秒以内に5枚をヒットするというのが上級シューターだ。
たとえばラウンダバウトというステイジではワシも3秒を切れる場合が多い。この3秒の内でもっとも時間を要するのは言うまでもなく「初弾」なのだ。初弾に1.2秒、残りの1.8秒であとの4枚を撃つというわけ。これでもすごく難しいのに上級シューターは2.3秒とかで撃つ、初弾は1秒を切る場合が多い。
鉄板競技では初弾が1秒以内というのが上級の条件といえるわけで、ワシではスモーク&ホープの近いターゲットでしか1秒は切れない。
初弾を制する者は鉄板を制す。
初弾遅き者は鉄板に制されるので鉄板料理でやけ酒をあおる。笑
そんなふうなので、初弾練習は大切だ。
で、そのためにはホルスタが自分に合っていなければならない。自分なりのホルスタを作り、あとはそれに慣れることだ。
今年のビアンキカップにきたトモと石井にX5のホルスタを見せたところ、2人はしばし無言だった。反応は大有りでマナコをオッぴらいて言葉が出なかったのだ。やがてトモが言った。
「一物・・・これはイチモツですね、市という文字のあとにモツと付けましょう」
う~ん、たしかにそれは世のオンナたちが悶絶しそうな市モツであった、そこで「ウタマロ」と命名する。笑笑
そこで市はリムキャットにも市モツを捧げようと考えた。そして半日を費やしてビアンキ社のヘミスフィアを大改造する。ヘミスフィアはあまり売れなかったために生産を中止されたが、数あるレイス用ホルスタの中でも最上クラスのヒトツで今でも愛用者は多い。
翌日、さっそく市モツを試す。
明らかに初弾のスピードが上がった。市は68才のジーサンなのにショウダウンの初弾目標である「マルハチマワタ」を達成できるところまで来たのでアル。
“よぉ~しマルハチマワタ~!”
と、撃ったあとタイマーを見て市は叫ぶ。
“あの、マルハチマワタってなんですか?” と石井が不思議そうに質問する、
“そんなことも知らんのかい? マルハチは1.08秒に決まっとるだろがぁ~!”
こんなの知ってるハズもないな。そう、ワシ調子がいいときはなぜかマルハチ(1.08秒)が連続して出るんだよん、笑。ちなみにマルハチマワタはフトン屋さんよ。
スティル チャレンジはターゲットをミスっても撃ち直せばよいことになっている。だが、1発ミスって撃ちなおしをすると0.3~0.6秒くらいのタイムが無駄になる。せっかく2.8秒で撃てるスピードがあっても1発のミスで簡単に3秒を超えてしまうのだ。
鉄板射撃の勝負どころは初弾と連射速度の「安定性」にあると言ってよいだろう。
みんなで全力疾走をする、すると誰かがコケる、そしてまた他がコケる、どんどんコケる、そしてコケの少ないシューターが勝つ。で、コケたくなくてゆっくり走るとタイムが足りない。誰でも速くは撃てる、が外しが連続するのでそうもいかない。自分がハンドルできるスピードで走る、しかしそれもギリギリ飛ばすのでどこかでコケる。
うんとこさ飛ばすがコケてはイケナイ。いかに五発五中を4回続けるか、ここに腐心する。
で、やはり、
なんといってもドロウが難しい。
両手を挙げてターゲットを見る。
“アーユーレディー”
と声がかかる。息を殺す。
次に
“スタンバァーイ・・・”
とくる。このあと1秒くらいでブザーが鳴る。
ハッと両手を降ろし右手でグリップをつかむ。このとき握り方がズレるとまずい。キチッと握れないとターゲットを捉えにくいのだ。抜くたびにわずかなズレはある、だがあまりにもズレるとバドグリップという握りそこないとなり、初弾の冴えはなくなってターゲット間のスピードも落ちてしまう。
練習すれば判ることだが、キレイなドロウというのはとても難しい。ちょっと気が散ったり、心が乱れたり、アガってしまうとひどい抜き方をしてしまう。
なのでドロウは何度も幾度も、何千回も何万回もやる必要がある。カラ撃ちで年がら年中やるのがよい。それでも試合の場に立って両手を挙げたとたんに不安になる。グリップを瞬間的に握れるかどうか心配になる。あの、世界でベスト5に入るマック サカイでさえドロウの不安を抱えながらカラ撃ち練習を延々とくり返すのだ。
ところで去年、ワシはマックにこう言った。
“マックや、使っているエアガンを本物のように重くして、トゥリガープルもうんと重くして練習してこいや・・・”
するとマックは、
“ええっ? そんなことしたら日本で優勝できなくなっちゃいますよ~”
と言う。そこでワシは、
“日本で勝ち続けてなんの価値がある? USスティルで勝ちたかったら他に腕をあげる方法などないぞ・・・どっちが大切なんだ?”
と、そう言った。
今のマックはトップシューターの1人であり、そのスピードと精度はまさにワールドクラスそのものだ。そのドロウの滑らかさと速さ、ターゲット間の瞬間移動は芸術的に完成され、人間技の限界域を見せられているような気持ちになる。だが、ここのところ優勝がない。もうひとつパワーを増強したいと感じる。エアガンでは実銃よりもずっと速いタイムを出しているわけで、これは銃とトゥリガープルの重さの違い、それに反動による遅れが原因かと想われる。なのでせめて銃の重量を増して初弾のスピードをわずかでも上げる努力をすれば結果に影響するとワシは考えるわけだね。
さてさて、リムキャットで二千発ばかり撃ったろうか、ちょっと慣れてきた。3.7グレインでジャムもなくなった。
そんなところにウエストコースト マッチというオアツラエむきの試合があった。
この背景を手短に説明しよう。
USスティルは来年からフロリダに移動することになった。この本戦はUSPSAという射撃連盟が有しており、彼らの決定による移動だった。これでは代々続いてきたレイク パイルーのスティル チャレンジが滅びてしまうと心配したジム オウ ヤングというシューターが創始者マイク ドォルトンと組んでスポンサーを募りキャリフォニアでの地区試合を開くことにしたというわけ。
エントリー費は95ダラと安く、1日だけで撃つ。レンジ オフィシャルは雇わず、各グループでスコアもつけるというローカル色豊かな和気あいあいマッチだ。
ワシにはスティル チャレンジのためにフロリダに行くだけの元気はないので今年が最後のUSスティルだと想われる。したがって、このウエストコーストマッチが来年からの楽しみということになる。
もともと賞品が欲しくて試合に出るわけではない。ただ皆と集まって撃ちたいだけのこと。試合の目的は他人に勝つということではなく、去年の自分を凌駕、あるいはキープすることでしかない。このトシになると身体はじょじょに萎えてくる。パワーも俊敏さも年々衰えてくるわけで、凍りかかった池の凍結を遅らせるために頑張って泳ぎまわるひたすらな水鳥の心境だともいえる。
射撃をやっているといろいろな付随したシゴトをすることになるのでボケ防止にも貢献しそうな気がしている。
そういったセミ ローコマッチの第1回目の試合に出かけた。
ムカシは毎月LAまで走って試合に参加し、トンボ返りをしたものだが今はもうそういった元気がワシにはない。なので必ず仕事を兼ねるという旅行にする。仕事をほってテッポ遊びに熱中できる若さはなくなったというわけだね。さいわい、毎月1回はタフプロに出かけて何かを試作するという仕事があり、その日程は自分で決められるので試合の日に合わせられるというわけ。余談だが、日本の地震と津波を観てからというもの真剣になってサヴァイヴァル用の背負いバッグを作っている。今月あたりにはシャバーテスト用の試作ができるので楽しみなのだ。
で、このマッチにはアリゾナのサメジーも参加し同じホテルに泊まった。
サメジーはアメリカでガンスミスになるという夢をもって留学している。MGCの福岡店でバイトをし資金をためながらエアガンで鍛え、その腕前は日本でトップクラスだとマックが伝えてきた。
じつは、このサメジーもリムキャットを注文し、ワシの直後にゲットしたばかりだった。
だが、どうも彼のリムキャットは調子が悪いと知らせてきた。ワシよりもずっと慣らし運転に苦労しているらしかった。とはいえガンスミスのタマゴだけあって懸命に考えながらどうにかリムキャットを動かせるようになっていた。
ウエストコーストマッチは意外にも多くのシューターが集まっていた。90人くれば嬉しいというマイクだったが、タクマ情報では120人から来ているという。
どういうわけか、この日の朝は寒かった。
カネと長い日数をかけて作り上げた厚手の脂肪襦袢を着込んでいるタクマでさえ寒がっていたのだから、老骨が空気に直接触れているワシは氷の上のヘビ太郎のように血流が停まっていた。笑笑
我々のグループはサメジーとタクマ、それとロサンジェルス シェリフが2人と女性1人の6人組だった。互いの自己紹介をしたところリチャード警察官がタフプロダクツの愛用者でワシのことをよく知っており、たちまちにして打ち解け合った。
警察官が拳銃の試合にやってきて日本人たちとスクワッドを組んで一緒に撃つ。これは米国では普通な出来事なのだが、日本という井戸の中では想像すらできないことだ。
やがて日本が中国の一省に組み込まれたとき、日本人たちは国防への考え方が間違っていたということに気がつくだろう。
軍隊は国民がお金を出し合って兵を雇い装備をかためる。警察にしてもしかり。戦う役柄を背負った者たちと国民はとても仲良く、精神面でも互いに支え合い、ともに楽しく生活する。そういった国は強く、外敵も近付かない。と、こういったことに気がつくのが遅すぎないことを願うのみだ。
で、初めは「アクセレイター」を撃つ、どうしてそれからかといえば、そこでは誰も撃っていなかったからというローコマッチならではの気楽さによる。スケデュールはなく、とにかく空いているステイジからやっつければいいというわけだ。
とはいえ、やっつけられたのは我々のほうで、始まると皆が次々とコロびだす。
期待のサメジーはきわだったスピードで撃つがミスが多くてトータルではよくない。かなり安定度を増したタクマも連続的にミスッてターゲット間の往復運動をくり返す。“これをタクマ ダンスと言うんだ”とジョークを飛ばし、大笑いとなってリラックスの波がひろがった。
ワシはといえば、アクセレイターは3秒を切らないと100秒切りは可能ではない、とはいえコールド スタートで3秒を切れたことはない、とにかくコケない範囲でめいっぱい走ろうと頑張ったがどうにも外しが出てしまい、このステイジだけで3秒遅れという結果だった。
身体は硬く、腕には大リーグ養成ギプスを星一徹さんに着せられたようにギリギリとスローダウンさせられる。
“おかしいなぁ~、狙っているのに当たらないんだな~・・・”
これが日本ティームとポリス ティームとの一致した感想だった。
そしてその後も順調にボロが出てトータル スコアは去年の本戦よりは少しだけよいというものだった。
100秒の壁に挑戦するだけの技術はあっても現実化まではほど遠いかと・・・。
だが主役のリムキャットそのものは3.7グレインで快調そのものだった。まったくモンダイはなく、ただトゥリガーを引くヤツがノロマだったわけで、これには少々うんとこさ反省しているんだよ。
サメジーのリムキャットはまだちょっと火薬を増やす必要があり、それでも一度だけジャムを起こした。ガンスミスのタマゴ君はこの試練を真剣に受け止めて考え込んでいる。まだ8月の本戦までは間があるので彼はリムキャットを美事に動かしてくれるだろう。
なんといっても、初弾が大切・・・
うん、しつこいのは判っている、
でも、どうしても初弾の精度とスピードが大事なことなんだよ。
初弾で決めよ、初弾で倒せ、弐の撃ちはなしと心得よ。そう、ジゲン流の教えもまったくこれだしね。
試合から戻ったワシは、ここでまた呪文のように唱えている。
“初弾をキレイに、まずはそこからだ・・・”
とね。
しかし、両手を挙げた状態から拳銃のグリップを正確に握ってスパッと抜くことがここまで難しいとは想わなんだよ。
まあ、200発ばかり練習すればタイムは良くなるものではある、が、翌朝にそれが出来るかというと、けして出来はしないのだ。
昨夕の名人は今朝の迷人と化す。
それはアタマのてっぺんにあるのか関節にあるのか知らないが、そのディリートボタンが押されたように翌朝は、それこそヒロソガの大好きな言葉「別人28号」となっている。練習でせっかくイイ感触を得たのに、寝ている間にキレイさっぱりと技術は消去されている。これが世に言う「付け焼き刃」というやつかと想う。
ちなみに付け焼き刃の意味は「切れない刀にはがねの焼き刃をつけ足したもの。見た目は切れそうに見えるが、実際はもろくて切れない。その場をしのぐために、知識や技術などを一時の間に合わせに習い覚えること」
いや~、まったくだぁ~! まさにオイラのことだよ~、がくーっ・・・。
“あのなイーチ、トシくったらな、若いときよりもっともっと練習せんと技術の維持はできないもんだぞ・・・”
と、ロン パワーさんに言われたことがあるが、今のワシはそれをつくづくと噛みしめているところだよ。
まあ、そんな無理するこたゼンゼンないのだが、なにしろ射撃は楽しくて止められないんだよね~、それだけのこったよ~。ヘタの横好きってなかなか楽しいもんなんだなぁ~
んで、横好き野郎の頑張りを発揮するために朝飯前の練習をしている。
目覚めてから一杯のお茶を飲みながらブログをちょいと書き、リムキャットの入ったレンジバッグを肩にホキマ射場におもむくのだ。
ここにはペンジュラムしかないが、ワシには他のステイジなど必要ない。ここで初弾練習を時間の許すかぎりやっている。各ターゲットを右から1発ずつドロウして撃つわけだ。連続して5枚を撃つ資格は自分にはないと感じている。大きいの、小さいの、近いの、小さいの、そして大きいの、と5枚のターゲットを5回のドロウで撃つ。タマはダミーと半々なので経済的だ。じっさいタマが出ないときのほうが自分のクセが判明するので反省材料となる。
手を挙げる、ブザーが鳴る、ハッと抜く、そしてトゥリガーを引く。キレイに抜けたときはダットがターゲットの真ん中に停まる。そうでないときはダットは外にあるので修正して撃つ。どうかすると遠いターゲットを1.08秒で撃てる。1.20秒なら巧くいったとき、1.30でもそう悪くはないだろう。だがちょっと遅れたなと想うときは1.4秒までいってしまう。で、ちょっと気が散るとターゲットミスをする。
ただ銃を抜いて撃つだけという単純な動きなのに千変万化のドラマを感じる。驚くべきは、トゥリガーを引くというだけの作業もガクッとやったりクイッとひねったりグラッとなったりで毎回違うのだ。機械と人間との差をつくづくと感じてしまう。
ここんところ、こうして毎朝100回ほどドロウ アンド シュートをしている。つまるところ拳銃撃ちの醍醐味はこの単純作業に凝縮されているような気がしており、のめり込むような喜びを感じている。単純作業とはいえ、早抜きは難しいものだ。無駄のない正確なドロウ、それに左手を添えるタイミングがこれまたとても難しい。
本戦まで40日ほどという今、この練習がどれくらいの成果を上げるのか判らない、しかしやらないよりはマシだろうと想う。その間にひょっとしたことでバババ~ンと雲間から陽が差して、こここ、コレだ~!!という開眼の時がくるやも知れない。まあ、ちび~っとだけ巧くなるのが現実だろうけどね~・・・。
かくして100切りを目指しているワシは最高級なリムキャットを撃ち始めた。
弘法筆を選ばず、という言葉があるがアレは弟子達がかってに言ったのだと想う。
弘法さんに直接インタヴューして本当に筆など選ばないのか問いただしたところ、次のような返事が返ってきたよ、
“君ねえ、ヤッパ良い筆のほうがいいもん書けるにきまっとるよぉ~! でな、良い道具って持ってて嬉しいだろ? 楽しいだろ? その気持ちからやる気も生まれるわけでね~。だから愚僧は旅の途中で筆屋の前を通りがかると必ず立ち寄ってより良い筆と硯を探すんだよ。これがたゆまぬ努力というやつなんだな~。だから君もリムキャットをゲットしたのは正解だよ~ん!”
さすがに出来た人間は磊落だった。まったく飾ったところがなかった。そして弘法さんはリム猫印の饅頭をだして、こう言った。
「市さんよこれでも、くうかい?」
ちなみに空海と弘法さんは同一人物らしい。
なははは、ではまたっ!
Posted by 市 at
15:49
│Comments(1)
この記事へのコメント
おおっ!いきなり読み応えのある文章、ありがとうございます!初弾は、トリガープルの悩みは、はまさに私の命題、迷大、めいだいだめだいっ!・・精進させていただきますっ!
Posted by センセ at 2011年08月25日 17:27
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