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2014年02月05日

ベレッタM84 小説

市 (2014年02月05日 23:05) │Comments(10)記事
イチローさん、ハッピーバースデイ!実はみんなと話し合ってサプライズ同時多発テロを仕掛けてみましたよ! 村野の選択はこれだす!「ベレッタM84」 じゃじゃーん、始まり始まり~。    

9月28日の電話  
くたびれ果てて正体もなく眠りこんでいたが、長々と鳴る電話の音で意識が戻る。片目だけ細くあけると外には陽がさしていた。デジタル時計はAM10:45だった。〆切の近い別冊コンバットの仕事で毎日明け方までがんばっているので、どうしても朝寝坊になる。受話器をとって 「OK, WHAT'S UP(どうしたっていうんだ)」  と、寝ぼけて返事をした。なぜか、親しい友人からだろうと思ったのだ。 「こちら、FBIオフィスでございます。私の名はミセス・ストラサーン、アジア捜査部の秘書です。ミスターナガタとお話したいのですが・・・・・」 「O,OH, YES, SPEAKING(あ、あの、ボクです)」 「アラ、もしかしたら寝てらしたのではありません?」 「いえ、大丈夫ですよ。それより失礼なコトバですみませんでした」 「アートを仕事にする方は、異常な時間帯に寝るものですわ。お気になさらないでね」 「WELL(エート)、ところで何か・・・・・・・」 「ハイ、トレーニング・ユニットのベン・ウェバーがこちらでお目にかかりたいといっておりますが」 「ベンが?・・・・・なんですか一体?」 「至急会いたいとのことです。内容は私にもまだ・・・・・・」 「どうして、ベンが自分でコールしないのですか。もう5年になる付き合いなのですよ」 「すまないといっておりました。今重要な会議が続いているのです」 「・・・・・・・じゃ、行きましょう。サンフランシスコの本部ですね。アジア課は何階でしたっけ?」 「ありがとう。感謝ですわ。実はもう間もなくケリーがそちらに着きます。ご存知ですよね、ケリーは」 「スナイパーのほうですか?」 「そうです。ヘアは薄いけどハンサムなあのケリーです」 「あなたは、なかなか楽しくて知的ですね。会うのが楽しみです。でも確かミセスといいましたね。残念だな」 「ほんとはミスなんですよ。ミセスといわないと週末ゆっくりできないんです」 「アッ、やはり美人なんですね。ベンに早くハナシを終わるように言っといて下さい。そして、それから・・・・・・・」 「それから急いで帰って、ランディ君とアイリーンちゃんと楽しむのですわよね」 「・・・・・・FBIの情報網乱用ですよ。急に行きたくない気分ですね。ベンの顔など見たくもない」 「ウフフ、とにかく来て下さいな。ティータイムなら空けますから」 「あ、ベンの顔がなつかしくなりました。陽の光まで明るくなってきました。楽しみにしてます。声のキレイな人が好きでしてね」 「アラ、私のヴォイスがキレイですか?」 「ハイ、それはもう。最初に聞いたとき、胸がときめいて・・・・・」  その時階下のチャイムが鳴った。 「ケリーが来たようです。ではあとで」 ドアにはめられた広角レンズをのぞくと毛が薄く、目玉がギョロリとして、足の先がエンピツのように細く見えたケリーが立っていた。 「オー、ケリー!今日は運転手かい?手先が狂って人質のアタマを吹っとばしちまって、スナイパーをクビになったんだろ?」 「いや、頭皮からハーフインチだったな。タマはまず人質になった女のヘアを30本ばかりカットして、それから野郎の目玉に飛び込んだ。オンナといってもブヨブヨの45歳でね。野郎の目玉から飛び出した脳ミソを顔面にあびて、その顔をオレは75mから12倍のスコープで見ちまったんだ。死体のほうがよほどキレイだぜ」 「ああ、3日前のコカイン中毒の男が人質を取ったアレだな。そうかケリーがヒットしたの」 「ちょうどGOサインが出たとき、奴は頭をフラフラ動かしてたもんだから、たっぷり20秒もしてからトリガーをスクイズしたんだ」 「ま、続きは後で聞こう。着替えるから中で待っててくれ」    アサイメント  サンフランシスコのフェデラルビルに入ると、ケリーは裏側の荷物用のエレベーターに向かった。 「おい、ケリー。何で表に行かないんだ?」 「なるべく目立ちたくないんだ」 「そうか、スナイパーだしな」 「いや、君のことだ」 「エッ?」 「いや、それしか聞いてないから、オレはそれ以上は知らないよ」  なにか、ただ事じゃないのはハッキリしたと思った。 「ミス・ストラザーンの受付を通らないのかい?」 「階が違う」 「なんてこった!・・・・・帰りはどうなんだ?」 「オレがまっすぐ送り届ける。まっすぐな」 ストラザーンに会えないことなど、もうどうでもよくなっていた。どう見ても、今日の呼び出しは不自然だ。お迎えつきの裏通用口でもって世間話してくれはしないだろう。  7階の資料室の横にある小さなガランとした部屋に入ると、ずっと前に一度会ったことのあるゲイリーが待っていた。何もない部屋に、イスだけ3つ持ち込んだらしい。ケリーと入れ違いにベンが来た。 「ゲイリー・フィッチマンだ。来てくれてありがとう。君のことはベンからよく聞いて知っているつもりだ。私はアジア捜査の責任者でゲイリーという名だが、前に一度あってるんだが覚えているかい?」 「ハイ、フィッチマンという名が変わっているんで覚えてました」 「ストレートに言わせてもらうが、実は君に頼みがあるんだ」 「まさか人を撃つんじゃないでしょうね」 「そのまさかになりえるな」 「ぼくでなくたって他にも人材はいるでしょう?」 「チャイニーズで、おっとりと見えて、しかもクイックシューターでないといかん」 「ぼくは日本人ですよ」 「君はどこから見ても中国人に見えると皆が言う。私が見ても、韓国人でも中国人でも通用すると思うね。言葉はどうでもいいんだし」 「おっとりとはなんですか?」 「ドラッグ取引のデコイをガードしてもらいたいのだよ。相手はチャイニーズギャングで、こっちもチャイニーズのエージェントだ。一週間後にチャイナタウンのレストランで取引をやる。その店は白人の行かない所なんだよ。かといってビューローの中国人エージェントは顔が知られていたり、目つきが鋭かったり、第一シューティングの上手いのがいないんだ。その点君は上手い・・・・・」 「しかもボサーとして見えるというわけですね?だけどぼく一人で集まってくるギャングを捕まえるってわけじゃないでしょう?」 「そうじゃない。取引を成立させて30kgのコカインを渡してやり、金を受け取るのだよ。まだ当分は泳がせるわけだ。君にやってもらうのは、万一連中がエージェントを殺そうとか、誘拐しようとしたときの助けなのだ」 「なるほど、それほど危険でもないか」 「そういうこと。彼等は周囲に不審なことが起こらないかぎりは律儀なものだ。だから君の服装もTシャツとジーパン、それにスニーカーにしてもらう。カバンもバッグも一切なしだ」 「ウェポンは?」 「アンクルホルスタだよ」 「となると、中型拳銃・・・・・M60じゃ5連発,エージェントでも6連発か。ちょっと足りない。オートならPPK/SかP230・・・・・いや14連のベレッタだな。左足にベレッタ、右足にマガジン2個とナイフ。レストランなら狭いから勝負は早い。相手が3人・・・・・いや5人と考えて、2発ずつシルバーチップを叩き込むとして、3秒の勝負か。だったら右足にはマガジンよりバックアップにPPK/SかP230でナイフはないほうが、ベレッタの故障を考えたとき有利だな。どうだろうね、ベン?」 「いや、さすが決めるのが早いな。俺はてっきりM60かと思った。信頼性の面でね」 「.380のPPK/Sなら、リボルバ並みに信頼できる。問題はベレッタなんだ。主力となるだけに重要だから・・・・・テストしてみるか」 「じゃあ、引き受けてくれるんだな?」 「いや、まだ決めてないですよ。ベレッタをテストしながら考えさせてくれませんか?」 「まあ、いいだろ。帰る前にコンピュータでも見ていかないかね?」 「へー、それは面白いですね」  ゲイリーは立ち上がって、入ってきた方の内側のドアを開けた。小さな部屋だったが、グランドピアノくらいのコンピュータが据えてあった。いったい、こういう仕事のギャラはいくらなのだろうか。うっかり店の者など撃ったらFBIで責任を取るのだろうかなどと、新しい疑問がわいてきたが、一人になって考えようと思った。    コンピュータのメモリー 「コンピュータには可能な限りのアジア人のデータが入っている。ためしに誰かの名を打ってもいいよ」 とゲイリーが言ったのでTORO *****と、いたずら半分にキーをたたいた。3秒とたたずにトロサの生年月日から家族構成などが出てきた。別のキーを押すと次々とデータが現れる。『本名****・**。**生まれ。拳銃と憲法の使い手/***で**というレストランを開き*ヶ月でつぶれた。カウボーイ。競争相手の土産屋による密告、嫌がらせなどで閉店。****年*月、*****でスシ屋開業。見よう見まねの素人職人なれど、誰にも見破られず評判良好。女好き、オカマのウワサに関しては調査中。ウーム、知らないことがいっぱいだ。  UZITAと打ってみた。気になる男なのだ。通称ブラックメイラー。仲間のタコハチと組んで四方八方に密告の手紙を送る。イーチがカメラに拳銃を隠して日本に持ち込んだとか、シスコでジャマグチ組に銃を売ったとか言う内容で証拠なし。一見マジメ人間ながらポルノきちがい。ヒマさえあれば日本のウラビデオを見ている。性格陰湿なため、恋人になりかけたムワリコちゃんに逃げられる。偽装工作にて永住権取得なれど、移民局はこれを察知。しかし即刻逮捕はやめ、ポルノを密輸したタコハチと共にインターポール・・・・・・・』  いやはや、この人のデータは深度を下げてみると実に面白いので、次の機会に見るとして、今度はICHIROを打ち込む。『市郎・・・・・鹿児島生まれ・・・・・写真学校・・・・・女・・・・・女・・・・・印刷屋・・・・・女・・・・・フリーランサー・・・・・女、女・・・・・女・・・・・アメリカ・・・・・サラ洗い・・・・・女。人間失格・・・・・また女・・・写真すこしうまい』チクショウ!ロクなこと入ってないと思いながら制度をシークレットまで上げてみた。『女・・・・・女・・・・・1985年6月25日、サンフランシスコ964SHOTストリートにて車に乗ろうとした男女を3人の男が.22LRピストルで脅し、金品をまき上げているとき、銃声が3回して3人の男は即死。犯人は向かいのアパートの角から撃ったので被害者の2人と、本当の被害者3人とも姿さえ見ていない。しかし事件直前に近くに赤のスープラが停車し銃声の直後に去った。目撃者は1FAPとナンバーを記憶していたので該当するものを探したら1FAP900の持ち主がICHIROと判明。この時点で事件はSFPDからFBIに渡され、証拠不十分のまま打ち切る。 !・・・・・』  冷や汗が背中を伝い流れる。この連中、本当に真相を知っているのだろうか! 「証拠不十分か。やってもいない捜査を打ち切るとは、わがFBIも器用なことをするじゃないか。なあ?ベンや」 「エエ、この犯人を逮捕しに行くとなると5人やそこらは死ぬことになりますし、こっちは人手不足だし・・・・・・」 「まったくだ。それに、この犯人はPPK/Sで15mからヘッドショットを3発決めているんだ。この腕前でわしらの助っ人になってくれんものかねぇ。ただの通行人としてたまたま現場に居合わせてくれたら、どんなに助かるか知れないもんじゃないなあ」 「・・・・・来週のいつ、どこですか、それは?」 「おお、やってくれるのか!」 「(-3)+(-3)-0という公式が可能ならね」 「たとえ(-3)+(-1)だって0になるさ。-1がエージェントでない限りはね。この封筒にすべて入っているよ。ただしエージェントのチェインは、君の事を何も知らない。ヘルパーがいることさえ知らせていないのだ。うっかり目を合わせたりして、連中に感づかれたくないからね」 「ワッカリました。ありがとよ、ベン、まーったくいい友を持ったもんだ。ユスリ、タカリの正義の味方だもんな」 「まあ、そういうな。失敗したって我々は君をどうこうしやしないよ。それより、この事は我々3人しか知らない事だから、絶対に口外はするなよ」 「そう願いたいね。これから下見をかねてそのレストランに行って、早めのディナーでも食ってから帰るから、ケリーには送りはいらんといってくれ。あ、それからミセス・ストラザーンにお茶は来週になるといってくれ」    M84とPPK/S  9月27日。別冊の仕事など手につきそうにもないのでツル若丸に電話して、一身上の都合で〆切を一ヶ月延ばしてくれと頼むと、 「エーッ、なぜ、どうしてなんですか。約束したでしょう!ねぇ、なぜですかー」  と、つめ寄られて困った。ドイツ兵も“ルガー!”なんて怒り、ジェシーの手製ナイフを研ぐ音まで聞こえる。 「友人が死にそうなんだよ」 とか何とか言っても信じてくれない。友人が死ぬくらいで仕事が手につかないイーチだとは思わないらしい。この繊細な男をいったいどう見てるのかと驚く。ジェットストリートで3人を撃ったのも、勇気とか人助けでやったのでなく、暴力犯罪を目の前にしても黙っているという自分に対してどんなに落胆するか。自分の存在価値そのものにヒビが入ることは胃の中に酸を注ぐようにつらいから。その精神力の弱さゆえ夢中で撃ってしまい、ドキドキしながら帰ってきたのだ。本当なら見て見ぬふりをするだけの図太い神経を身につけたいのだが、人はそれを信じてくれない。 「まあ、いいでしょう。そのかわり、これからの仕事は減るものと思って下さい・・・・・・」  ということで電話は切れた。FBI直属のボディガードの仕事なんてないだろうなあ。とにかく職さがしはあとだ。ツル若丸の言葉だって、たんなるオドシかも知れないのだから・・・・・・いや、きっとそうだ、うん。などと考えながら、ロッカーからベレッタM84とワルサーPPK/Sを出す。M84は.380の銃としては大柄で、全長が17.5cmもある。ダブルアクションのオートで、マガジンに13発ものタマが入るところがすごい。それにハンマーをコッキングしたときにもセフティがかかるので、ガバメントのようにコックアンドロックができるのだ。通常は、ハンマーダウンして携帯し、撃ち合いでも起こりそうなときは、カチリとハンマーを起こしてセフティがかけられる。ダブルアクションはトリガーストロークが長く、コントロールが難しいが、シングルだとトリガーを1mmでも引けば発射できるし、正確に撃てる。M84は大柄だが、フレームがアルミなので、見た目よりもずっと軽い。マガジンに13発とチェンバーに1発タマをこめたときでも765gと、手頃な重量だ。欠点みたいなものをいうなら、スライドの幅がありすぎることだ。PPK/Sなら22mmなのにM84は25mmもある。ベルトの内側につっこんだとき、3mmの差は大きい。それとマガジンを抜くとトリガーが引けなくなる。マガジンセフティというやつだが、もしマガジンがなくてタマはあるというとき、シングルショットのようにチャンバーに1発放りこんで、ドアを破ってきた男を撃つことができないのだ。強力無比のツールがラジオペンチ以下の存在になりうるので、マガジンセフティは無用といいたい。もう一つの欠点はリングハンマーだ。リングは親指が滑りやすいのでコックするとき気を使う。実弾入りの銃をコックするのだからなおさらだ。スパーハンマーだとよく指にかかるので安心してコックできる。M84とそっくりな、やはりイタリア製のブラウニングBDA380はスパーハンマーだが、惜しいかなコックアンドロックでなく、セフティをかけるとハンマーが落ちるタイプだ。見た目にはリングハンマーはかっこ良いが、ダブルアクション・オートにはスパー、または大きなリングハンマーが必要だ。と言うのは、一瞬にして抜いて撃つとき以外、2秒でもゆとりがあればやはりハンマーをコックしてから撃ちたいので、とくに20mも離れると、オートのダブルアクションでは正確なシューティングができないからだ。  M84を分解して内部をよくチェックした。リボルバと違ってオートは繊細だから、エキストラクターとエジェクターは常に見ておく必要がある。M84はまだ新しく、300発は撃っただろうか。ただアルミのフレームはもろさが気になる。いっそステンレスにしてくれたら良かったのだが、イタリアにはそんな技術がないのだろうか。ちょっと位重くても良い、アルミに命を預けるのは不安だから鋼鉄のものが欲しい気がする。PPK/SにもSIG P230にもステンレスがあるのに残念だ。 そう考えながらベレッタを組み立て、ダブルアクションでドライファイアを練習した。ホルスタから抜いて、目の高さまで持ってくる前に80%くらいトリガーを引き、ターゲットを確認してから引き切る。狙ってからトリガーを引きはじめたのでは、ストリートファイトにしろレストランファイトにしろ命が危ない。しかし、この方法打破よほど練習をしておかないと、抜きながら床を撃ったり、ターゲットを捕らえるより先にハンマーが落ちたりしやすい。これはダブルアクション・シューターの日課だが、銃によってクセが違うのでこまる。M84は、パイソンのように、はじめに軽く、だんだん重くなってから落ちるので、狙う前に撃ってしまうことはあまりない。まるっとした握りやすいグリップ、PPK/Sとよく似た狙いやすいサイトに満足してM84を置く。  次はPPK/Sだ。名銃の中の名銃ワルサーPPKを、アメリカの輸入規制に合わせてグリップを長くしたのがPPK/Sで、SはスペシャルのSだ。PPKアメリカンというわけだが、このPPK/SはアメリカンPPK/S。つまりアメリカでライセンス生産されたものだ。ドイツ製のほうが質が高いのじゃないかという気はするが、これといった不満はない。明るい輝くようなブルーが素晴しく、ドイツのちょっと鈍くおさえて輝くあの魅力とは別の良さがある。値段も安く約7万円。M84と同じくらいなのだ。会社のイメージとしてワルサーとベレッタはポルシェとワーゲンの違いだから、プライスが同じということは安い買い物だという気がする。  M84をいじくりまわして満足はするのだが、なにか足りない感じ・・・・・・夕食にラーメンを2杯食べて、足りないのであと1杯食べてしまったような、満腹の中の空虚がベレッタにある。分厚いトンカツとなめこの味噌汁、熱いご飯とタクワンすこしを食べたあの重圧で微塵の疑いもない満腹感。もう食い物は見るのもイヤだ。後はゆっくり眠るだけスーや須屋という、あの安心感がないのだ。  その不足感はワルサーPPK/Sを手にした途端に解消する。スライドやトリガーを引くまでもない。手にしたとたんにジンと伝わってくるのだ。あっ!美人・・・・・・と理屈抜きに心がなごむ。特別に美しい女性が放つ、あのヴァイブ、こころよい空気、そういったものをPPK/Sは持っている。小型で、細くひきしまり、その知的な女は芸術だ。その華奢な体が絶叫し跳梁し、灼熱の弾丸を凶暴なスピードではじき出すとは考えられないほど見事な調和なのだ。PPK/Sにはツールの持つ必然的な美、それ以外の魅力がある。  クソッ。来週の仕事はこれでやりたい。M84の良さは、コックアンドロックと14連発だけのことだ。PPK/Sはひとまわり小さく信頼でき、命中精度も高いのだ。どうしてワルサーは14連発を作らないのだ。麻薬のディーラーが3人だったら8発でおつりが来るのだが、やはり5人だと仮定すると最低12発欲しい・・・・・・残念だ。    プラクティス  9月28日の朝、ベン・ウェバーが来た。 「オウ、イーチ。みやげだぞ。君が命をかけて戦うときになくてはならぬ小道具だ。さぞかしよく似合うだろうと思ってな」 「なんだこりゃ。ドンブリ?ラーメンのか?」 「その通り、チャイナタウンで買った中国製のやつだ。ほら、ハシもあるぞ」 「どうしろってんだ、一体?」 「今日からみっちりプラクティスだろ?オレも手伝いながら見学させてもらうが、こいつが必死になって練習してる君の前に置いてあると思ったら、それだけで笑えちゃってな。ハッハッハ、もう待ちきれんぜ。早くレンジに行こうや」 「あまりナイスなジョークじゃないが、まあ机の上に置いとけば、多少の気分はでるだろう。だがサンキューをいうのはそっちだ、楽しいのはオレじゃない」 「気にさわったか?スマン・・・・・・」 「いや、ぜんぜん。ただ、こんな重大なときに、こういうジョークをいって、ホントに嬉しそうにしているアメリカの白人種というものに、うらやましいという気がしただけだ。確かに俺たち日本人は緊張度が高い民族だと思うよ」 「そうかな。俺はアジア人の物静かさはやたら物事に動じないという感じでリスペクトしてるんだが」 「よし、お世辞はそこまでだ。行こう」 「OK。やはりM84を使うのか?」 「うん、主力はな。バックアップはPPK/SかSIG P230のどっちかだ」 「P230?あれもなかなかのもんだと聞いてるが、どうなんだ?」 「とてもいい物だ。シンプルで軽い。だがちょっと大きすぎる。M84なみのサイズでシングルカアラムの7+1発、ハンマードロップ式と気に食わん。でも撃ちやすいし、命中精度もPPK/Sに引けを取らん・・・・・・それにしてもPPK/Sの完成度は高すぎて、他のモノがかすんで見えるな。M84のようにファイアパワーという強力な性能でもないかぎりはPPK/Sをヒートできないだろう」 そんな会話をしながらFBIのダッジバンでポリスレンジに向かう。よく晴れた秋の空が美しい。 「キレイな日だな」 と、ベンが運転しながらつぶやいた。 「ああ、このヒンヤリとした空気といい、弱くなった日の光が気持ちいいな。この空の下でなんで人間同士正義だ悪だと勝手な理由をつけて殺し合うのだろうか。俺にはいつも分からん事だ。ベンなんかは正義を守るなんて本当に思っているのかい。たとえばギャングだが、オレ達にとって奴等の存在が都合悪いから、生活がおびやかされるからと言う理由でやっつけようとしているだけで、どこをほじくっても正義なんてありゃしないのじゃないのか?」 「・・・・・・・」 「少なくともオレがこうしてギャングをやっつけることにしたのは、正義を守るなんてアサハカで空虚で立派な心からじゃないんだ。ホントのところ、人間の心に深く根ざした闘争本能をチクリと刺激したからだけのことじゃないかという気がするんだよ」 「ウム、たしかにそれはあるな。人間なんて不必要に残酷だし・・・・・・わからんもんだ」 「オレを見ろ、ベン。となりのフィアット、美人だぞ。肩の線がキレイだ。あれハムちっとして、良く熟れた桃だ。ウス皮をつめの先でむいてがぶっと食うと、ジューッとしたたるあのうまさだ。ウーン、頬の知的な線、湖のような目も上等だ」 「いや、オレはもちっと細くないとダメなんだ。いいのはわかるが、あまり利口そうなのもな・・・・・・」 「オット、次の出口だぞ。おりて右だ」ターゲットは5枚、それも小さいものにした。レストランでは座っているから半身しか見えない。連中のことだから防弾チョッキは着てるだろう。それと.380のパワーを考えるとヘッドショットしかないという気がする。レストランのテーブルの配置を思い出しながらターゲットを立てた。小さなルームなので相手との距離は5mがせいぜいだが、プラクティスは難しいほうが良いので、5mに2枚、7mに3枚セットした。イスとテーブルを置き、座ったままで撃つことにする。テーブルにドンブリを置くとベンがノドチンコを見せて笑った。ターゲットに対して90度の角度をむいて座り、食事のポーズをとる。リラックスして慣れきったポーズが必要だ。 「こんなもんかな、ベン?」 「アー、どう見ても不良東洋人だ」 テーブルの下の左足を、右足のひざに乗せる。左手でさりげなくジーンズのスソをたくしあげアサルトシステムのアンクルホルスタからM84を抜く。ハンマーは起きてセフティをかけてある。左側のターゲットから見えないように右手のM84を腰のあたりに位置した。これがポジションというわけだ。 「ウム、そんな動作で充分だ。こっちから見ていて、何をしてるかまったく分らん。ただ左の腕をテーブルに乗せるともっと自然になるし、右手が自然に見えなくなる」  と、ベンがアドバイスしてくれる。早い動きやギコチナイ動きは目立つ。ゆっくり自然に体を動かして、いつのまにか手に銃を握っている必要がある。これは反射神経ではなく演技力がものをいう。 「よし、ベン。タイマーを押してくれ」  食事の、ちょっとくつろいで何かを考えているふうを装って、右手にかるくベレッタを握り、左手はテーブルに乗せた。足は組んだままだ。不安定ではあるが、足を踏ん張る時間などないかも知れないのだから慣れておきたい。  ブザーが鳴った。物音たてずにさっとターゲットに向き、右から一発ずつヒットする。M84は快調だ。いささかの不安も感じさせない。びしっと鋭くほえ、.380独特の爽快なリコイルがあり、エジェクションポートから次々とエンプティケイスが飛び出す。 「全弾ヒット。3.28秒だ。いいな」 「リビューしてくれ」  プロタイマーは、銃声を聞いてタイムを出し、一発目からずっと記憶しているので、ボタンを押せば何発目が何秒で次との差は何秒というふうに分かる。“シューターズフレンド”と呼ばれる便利なタイマーだ。  1  1.08秒  2  1.66秒  3  2.33秒  4  2.80秒  5  3.28秒  3.28秒・・・・・・・敵が油断していて銃がホルスタに入っていれば、逆襲されずに5人の脳ミソを破壊できるが、銃を手にしていれば、3番目の脳ミソが働いて、こっちがやられるのは間違いない。5人のボディでよかったら1.7秒ですむのだが、ヘッドとなると一発ずつキチンと狙うため3.2秒と長くなる。しかしなんとか2.5秒に縮めたいところだ。  プラクティス、プラクティス。その繰り返しが腕前を上げてくれる。ベンがタマをマガジンにつめてくれるのを次々と空にし、20箱もあった50発入りのタマが残り少なくなる頃にはコンスタントに3秒を切れ、調子のよいときは2.28秒というのまであった。PPK/SもP230も同じように撃ってみると、PPK/Sは小さすぎて握りにくく、キックも強いのでわずかに遅れ、P230は、それよりはるかに撃ちやすく感じた。  室内でただ眺めていると、PPK/Sに圧倒されて安っぽくさえ見えてくるM84だが、いざ撃ちはじめると強くなる。特にPPK/Sよりも6発多く入るマガジンは、安心感を与えてくれトリガーも早くなる。ちょっとくらいミスってもバリバリ撃てると思うのでリラックスするのだ。 「なるほど、ブレラ84はいいなあ!」  と、ベンも気に入った。 「あのな、そのブレラと呼ぶのをなんとかしてくれないか?」 「なんで?アメリカではみなブレラ、またはブレタと呼ぶんだぜ」 「しかしな、イタリアではベレッタと発音し日本でも同じなんだ。ところがこっちでいくらベレッタといっても通じないとは変じゃないか。ニコンをナイコンとか、ミノルタをマイノルタなんて英語はキチガイだ」 「そんなこと言ったらお前、日本人はTHANK YOUといわず、SUNK YOUというじゃないか。そうなると『お前沈んだ』という意味だぜ。レイディとレディをゴッチャじゃないか。エ?どーなんだ、エ?」 「あのなあ、それはTHとS,LとRなんて変わりもしない音を勝手に分けるエーゴがアホなんじゃないのか、そうだろが?」 「夕日の当たるレンジで心地良い疲労感を感じながら、互いに悪口を言い合って楽しんでいるとき、ベンのポケットベルが鳴った。ベンはダッジバンに走って無線のスイッチを入れる。  机の上のM84は紅く輝き、強く大きな影を引いて重く見える。急に逞しくなったような頼もしさを感じてじっと見入っていると、ベンが大きな体をゆすりながら駆けて来た。姿を見るまでもなく、その足音から興奮が伝わった。事件にちがいないのだ。 「イーチ、今夜になった!」 「なにが?」 「取引が今夜になったんだ」 「・・・・・WHAT?」 「行けるか?」 「もう6時だぜ、一体何時に始まるんだ?」 「8時だ。もうチョッパーが向かっているぞ。だからここからシスコに飛ぶ・・・・・・」  ベンの言葉が終わる前に、山あいの彼方にバルバルというヘリコプタの音がして、ずんぐりとした姿でつんのめるように突進してくるのが見えた。  夕日を背景の眩いシルエットだったが、悪い予感がした。ダバダバダバと地面に強力な風をたたきつけながらまっすぐにおりてくるさまを見ている内に悪い予感が黒雲のように大きく広がってきた。     銃撃戦 9月28日  PM8:00 チャイナタウンの暗がりにパークしたスワットバンの中で、野菜三度とミルクの軽い食事をしながら情報を待っていた。ゲイリーとベンは厳しい顔つきになっている。  麻薬の取引は難しい。特に初めての相手の場合、互いに信用しないため罠を恐れて取引場所には神経質になる。今回も一週間後のはずが5日間も早くなり、それを断ると疑われるため応ずる作戦になったらしい。 「中型のバッグを持った男が2人、今入った」  と、レシーバーに耳を当てながらゲイリーがいった。 「2人とも東洋人、布製のスポーツバッグを持ち一人は緑色、もう一人はエンジのジャケットを着ているが奴等の一味かどうか分からない。25歳と35歳くらいだ」 「だとしたら、マシンガンが2丁と見て良さそうだな。M84対イングラムなんてつらい勝負だ。しかもレストランも変わり見取り図もないときたもんだ。天下のFBIも、この中華街にはお手上げだな」 「いいか、勝負なんて考えるなよ。君はただ見守ってりゃいいんだ」 「もちろん、もう丸腰で行きたいくらいの気分だよ」  しばらくの間、レストランに出入りする客の実況中継が続いたが、特に怪しいのはいないようだ。ゲイリーは、入った客、出た客の特徴をノートしながら、常に今中に何人の客がいるかを教えてくれた。この作戦のために30人ものエージェントが働いているのだ。この日にレストラン”華苑”に出入りした客は、隠し撮りをされ車まで尾行がついてナンバーを控えられている。出入りする客は東洋人ばかり、たぶん中国人ばかりなのだろう。  PM8:50「チェイン・ヤングと仲間一人・・・・」とゲイリーがノートにかいた。チェインはエージェントだ。仲間はディーラーのひとりなので守る必要はない。  3分後、ゲイリーが目配せしながら、小さなライトの下に『ナンシー、マイコ、ゲイブン“華苑“に入る』とかいた。 「来たかっ!」  ベンが外をうかがってドアを開けてくれたので、ゆっくりとスワットバンを降りた。暗がりで見るスワットバンは、どう見ても水道工事用にしか見えない。  Tシャツ、ベルトなしのジーンズ、擦り切れたゾウリ。ボォーッとした顔つきの男は一瞬にしてチャイナタウンに融合したようで、誰も気にとめない。それでも、ネオンの下のショーウィンドウなど見るふりしながら、ガラスに移る街を観察し、尾行がないかを確かめながら“華苑”に向かう。  グランドストリートは、チャイナタウンの中央を貫く賑やかで明るい通りで、土産物屋と食堂がぎっしりと並ぶ。9時になっても人通りは多い。“華苑”は、グラントから2ブロック外れたところにあった。わずか100mしか離れていないのに、ウソのように静かで暗かった。腐敗の臭気が沈殿し、もの臭くなるような体臭と気配があった。終戦後の日本の闇市にかいだ祖国の臭いと同質のものだ。  小さな古びた看板はペンキがはげていて、やっと“華苑”と読めた。アメリカに渡って、まずは小さな食堂からはじめ、やがて一旗あげようというという意気込みと希望が“華苑”という文字の中に、はちきれそうに充填されているような気がした。大変なことなのだ。アメリカで東洋人が根を張るということは。  仕事はスリリングではあるが、危険はなさそうだし麻薬取引を目撃できるという好奇心で引き受けた要素もあるので、どこかで楽しんでいるのじゃないだろうかと思いながら狭い階段を上った。左の足首でM84が、右の足首ではPPK/Sが揺れた。10mもある長い階段を上りきると便所を思わせるような小さな扉が開いていて、閉まらないようにダンボール箱を置いてあった。入るとすぐ右にキャッシャーがあって、正面にはつい立が立っていた。左の方がキッチンで右側が客席のようだ。奥行き5m、幅8mと天井のコーナーを見上げて頭に入れた。メガネをズリ下げ、アゴを少し前に突き出して口を半開きにして立っていると、キッチンの奥から50歳位のおかみさん風が料理を持って出てきて、中国語で何か言いながらアゴで客席の方をしゃくって見せた。どこでもいいから座れといっているらしい。つい立の左側を廻ると客席を見渡せた。左の奥に丸いテーブルがあり、そこに女がひとり、男が4人座っていた。チャイニーズギャングの親分の息子の女、ナンシーと2人の用心棒、それにFBIのチェインと連れの男だ。ホホー、なかなかの美人だ。細いあごに軽薄な感じがあったが、目の大きなすらりとした体つきは人目を引く。固太りの用心棒が鋭い視線を送ってきたが、すぐにチェインの方に目を向けた。右の方からも視線があった。ぎょろりと見渡しがてらそっちを見ると、右の隅に緑とエンジのジャケットが座っている。2人とも右手を左の脇の下に入れたままだ。しばらく目が合ったが、2人は安心したように視線を外した。ずり落ちたメガネと半開きのだらしない口は心の奥でも覆って隠す。どうやら関門をパスしたらしい。他に客は5人いたが誰もこっちを見ず話し込んだり食べたりしている。あまりボケーとしてもいられないので、手近な2人用のテーブルに着いた。つい立の方に向いて座った野で、左手に客全部が見える。右奥の2人まで5m、まずはプラクティスのときの形ができた。  おかみさんがぺらぺらのメニューを突き出して、何か言った。汚れて皺皺になった汚いメニューからなんとか八宝菜という文字が読めた。指でさしながらあーあーとメニューを向けると、お上さんはうなずいてメニューを受け取った。わかったという合図らしい。ただの間抜けの無害な男にまでなってしまった。  左手でアゴを支えながら左手の天井の辺りに視線を固定して、視界のはずれに入っているナンシーと用心棒、それに緑とエンジのジャケットを観察する。怖いのは緑と園児だ。右手はずっと脇の下に突っ込んだままで、左手だけで食べたり飲んだりしているのだ。しかも2人ともひざの上にはジッパーの空いたスポーツバッグを乗せている。視線も鋭く、絶えずサーチライトのように周囲を見回しているのだ。この連中は人を殺しても何の痛みもなく、ぬくぬくとマージャンをするのだろうと想像したら、腹の底から負けん気と闘志が沸いてくる。ケンカでも吹っかけたい気分だ。  視線を天井に固定しながら、ナンシーの用心棒2人を探る。天井を見上げているように見えるが、その実、視界に入るものすべてを見るというのは、憲法の技の一つ“八方目”というやつだ。視線、殺気、気配など一切感じさせずに相手の心まで読み取ることまで可能だ。  察するところ、その2人は腕の立つ用心棒ではない。ギャングの幹部らしい落ち着きを見せてはいるが、ファイターとは思えない軟弱さが表情から読めた。ナンシーは神経をチェインの方にすっかり向けていて、周囲のことには無関心だ。武器を身につけているとは思えない。その白い顔にM84のフロントサイトがかぶさるのを想像する。この白く美しい顔を撃つと言う事は、いったいどういうことだろうか・・・・・・と考えているところに八宝菜とチャーハンを持っておかみさんが来た。「あ、あ」と目で感謝をあらわすとにっこり笑った。苦労してそのために頑固になったようなところがあるが、笑うと優しい。  そのおかみさんの目が入り口に移って、頷いた。つられて見ると、そこにSFPDの警官が立っていた。東洋人だ。 「・・・・・・・!」  バカなっ!と思う間もなかった。緑とエンジのジャケットの男たちが、黒光りする大型のオートを抜くのがスローモーションのように見え、ポイントするまでの静寂がウソのようだった。いきなり、部屋は目の前が白くなるような音の衝撃に満たされ、耳の奥に激痛が来た。立て続けに轟音がおこり、警官はよろめいた。そしてコメカミから液体が溢れ出した瞬間、くらげを落としたように床に崩れた。自分でも分からない、気がついたときはキッチンに飛び込んでいた。小さく開いた戸の隙間から成り行きを見た。チェインと仲間はりぼるばを抜いて、撃った男たちに向けようとしていた。お上さんは警官の体に覆いかぶさって泣きわめいていた。いきなりナンシーの隣の男たちがチェイン達を襲った。目を空けていられない位の音がした。耳がキーンとなって会話も聞き取れない。5人お客は床に伏せて、生きているのか死んでいるのかも分からない。ガンガンという文字をタタミほどの大きさでかいたほどの音が続いた。静寂・・・・・・・。おかみさんの泣き声が聞こえた。景観はお上さんの息子だったらしい。たまたま立ち寄ったのだ。事情を察したらしい5人のギャングは、呆然としたが、幹部の一人が2人の用心棒に何かを指示した。用意jんぼうはオートをホルスタに入れて、バッグからUZIサブマシンガンを取り出した。2人共だ。チェインたちも倒れている。幹部はナンシーをせきたてて出口へ向かう。用心棒の2人は落ち着き払った動作でUZIのセフティをOFFにして、一人は握りなおしながら、こっちに歩いてきた。目と目があって。4m、男は平然と近づいてくる。銃は構えずぶら下げたままだ。喉はからからで声も出ない。握り締めていたM84のセフティをOFFにして左手でひきつけ、一歩退いて両腕を伸ばした。ダダダッと扉の向こうで3連射が起こった。同時に扉が開いて、UZIをぶら下げた男が入ってきた。目と目が再び合った。男の鼻先1mにべれったがあった。驚愕の表情を待たずにトリガーを2度引いた。鼻と、そのすぐ上に穴が開いた。倒れる男の横をすり抜けて戸口から客席を除いたとき、再び3連射が起こった。耳は麻痺してもう痛くない。UZIを腰だめにした男は床に伏せた客を無造作に撃ったところだった。バリケードスタンスをとって、ベレッタのサイトを男の顔面に合わせた。男はUZIを軽くスイングして、テーブルの下で伏せているオレンジ色のワンピースに銃口を向けた古江をこらえている2本の白いちょっと見とれたようだ。耳を狙ってM84のトリガーを引く。こっちも見ず、あっちも見ず喜びも苦しみも見せずに男は倒れた。男に銃口を向けたまま寄ると反対側の耳の後ろから、こぶしほどの肉塊が飛び出し、黒っぽく見える血がドクドクと流れ出している。オレンジのワンピースの娘が顔を上げた。丸い顔が泣いている。一秒とそこにはいず、階段の方に走る。見下ろすと3人はゆっくりと降りていた。地面まであと3m。  こいつら、生かして帰らせるか!激しい怒りで震えていた。絶対に許せない。死刑は自分の手でやろうと思った。 「フリーズ!」  大声で怒鳴った。3人が一斉に振り向いた。ギョッとした表情は暗がりでも感じ取れた。 「上がって来い。COME ON」 「あなた、あの2人を殺したの?」  と、ナンシーがかすれた声で言った。キレイな英語だった。 「そうだ、上がって来い」 「あなたは誰なの?」 「通行人さ」 「通行人?・・・・・・とにかく上がるわ。話し合いましょう」  ナンシーが2段ほど上がったとき、後の2人は手にした大きなカバンを4個同時に落として、上着をハネ上げた。ベレッタは右側の幹部-----用心棒たちに皆殺しを命じた男の動きを追っていたので、指に圧力を加えるだけでよかった。銀色のシルバーチップはナンシーの耳をかすめておとこのひたいで炸裂し、延髄を破壊した。立ったまま死人となったギャングは丸太のように地面に落下し、鈍い音を立てた。腰のリボルバに手がさわったかどうかという時、兄貴分が撃たれたので、もう一人の男は一瞬ためらった。どっちみち、階段の上のターゲットは手のひら半分の大きさしかない。暗がりに銃があってその上に目があるというのだから、反撃は無理だと初めから分かっていたのだ。銃を落とそうと思ったとき額に穴が開いた。小さなエンプティケースがナンシーのつま先で止まった。 「DON’T SHOOT おねがい」 そう言いながらハンドバッグを持たず、銃やナイフを見につけている気配はない。困ったと思った。何か武器を持っていて反撃してくれなければ、撃つわけにいかない。先ほどのすさまじい怒りも2人の幹部が派手に落下して死んだせいでさめていた。  ナンシーを壁際に立たせてチェインの傷を見ると、1発が肩を貫通し、2発が防弾チョッキの胃の辺りにめり込んでいる。肋骨は2~3本折れているかもしれないが、命は助かりそうだ。気がついて目を開けた。さすがFBIのデコイとなるだけあってどう見ても麻薬で稼ぐチンピラだ。 「動くんじゃない。骨が内臓に刺さると困る。からな」というと安心して目を瞑った。  幹部2人の死体が狭い階段の上に重なっているのを乗り越えながら、ベレッタをジーンズのポケットに突っ込んで外にでた。両手を上げてゆっくりグラントストリートの方に歩いていくと、最初のコーナーからSWATが銃を突きつけた。黙って立っているとなにか喚き合ってゲイリーとベンが走ってきた。 「ケガ人と死人だらけだ。チェインも撃たれた。助かるから救急車だ」  ゲイリーの指示でスワット6名が“華苑”に滑り込んだ。ベンと一緒に夜道をゆっくりと歩く。まだ膝がガクガクする。「ベン、肩をかせ。まっすぐ歩けない」 「大変だったな」 「まったくだ。いったい、このケリをどうつけるんだろう。世に出せる事件じゃないだろうし、オレもただの通行人じゃすまんだろ」 「ナーニ、偉い連中に任せときゃ大丈夫さ。大統領が暗殺されてもウヤムヤにできる国なんだぜ、ここは」 「自由の国、アメリカか?」 「そうだ」 「そこらで一杯やるか?」 「もちろん」 「・・・・・・あの銃撃戦は何秒だった?」 突然、計算外の警官が上がって来てな。えらい事になったと思ったときにはもうバリバリ始まってよ。最後の男が階段を転がり落ちてくるまで25秒。最初の銃声からラストのやつまで14秒というとこかな。パパンという軽い音がしたとき、オレはニヤッとしたぜ。そして次の一発でタイプライターがやみ、3秒後にはフリーズとしゃがれた声が聞こえたな」 「ふーん、14秒のファイトか」 「ナンシーを撃てなかったな?」 「まあな・・・・・」 「・・・・・いい女だった。ちょっと細めだったが、気に入ったね」  沈黙のときがあって、飲み屋が見えてくるとナンシーの顔を遠い人のように思い出した。  ウワー、やっと終わった。 君、全部読んだの?ゴクローさん!  いつもショートストーリーで初めも終わりもないので、今回は4日もかけて小説にしてしまったのだ。銃のフィーリングは小説の方が伝わりやすい気がしてね。  それと、登場人物はすべてカクーのものですから、UZITA君も怒らないこと。  ではまた・・・・・。   イチロー。

こ、こ、これは長かった~・・・。でもイチローさんの若かりし頃の作品に愛をこめてコピーしました。 喜んでもらえたでしょうか?                   
TROOPER

うわ〜!!ヽ(^。^)ノ
こんなのすっかり忘れてた〜
よくまあ書き起こしてくれたね〜
あんがとーん♪

でも今日は読んでいる時間がないので
後日読むことにするよん。




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 お待ちどうさお〜ヽ(^0^)ノ (2014-12-15 20:35)

Posted by 市 at 23:05Comments(10)記事
この記事へのコメント
その指令はいつものように一本のホットラインから始まった。
“ヘロ~ゥ!”
“ヘッローウ♪”
“あんな、今日はマルパソ兄ちゃんにエーゴ教えたろ思てナ”“エーゴだすか~?”
“エーゴちゅーてもイングリッシュやで~”
“イングリッシュー?”
“オレ、ケンブリッジ大学出やで~(ウソ)”
“ケンブリッジー?”
“ギャアール! ワンナイン ワンナイン、どや?”
“ハア~ン?”
“オンナ! イクイクや”
“‥‥‥”
“ほな次‥ユー!トゥーナイン ファイヴ、これどや?”
“わからんナァー”
“アンタ!憎ゥーい~、や”
“‥‥‥‥”
“ギャアール! スィックスティー ナイン!”
“やーらしぃナァ信ちゃん”
“ナーニ言うてんねんバカ!
ギャアール スィックスティーナインちゅーたらやなァ、そのオンナは六十九歳、つまりババアなこっちゃ”
“ハア~ン‥‥”

と、まあ何時ものようにくだらないギャグのやり取りから始まった互いの会話。
アチコチの現場を建築資材の配送していると。フロントガラスに敷いた「E☆YAZAWA」のタオルで覚えてくれたのか、職人さんが声かけてくれ。中には缶コォフィくれたり(笑)“さっきなァ~、昔同じ現場で働いてたオッサンが声かけてくれてん♪戦地移動して、以前の部隊にいた仲間に合った気分(笑)
土砂降りの雨ん中、ポウル マッカートニーのパイプス オブ ピースて曲のPVみたいな‥”
“ヘルメットも被っとるし‥安全帯や腰袋が装備に、スコップがM1ガランドに信ちゃんは見えるんやない?(笑)
おいらも昔の職場で値段シールをカチャカチャ貼り付けるラヴェラー‥あれを腰のあたり、バックサイド ホルスタみたいにしてブチ込んでサ。店内で呼び出しかかったら、現場に急行するオフィサーみたく、手で抑えながら走ったもんよ~”
“イッとるなァー兄ちゃん(笑)しっかし我らにこうした悪しき影響を及ぼしたのは、映画もせやけどやっぱイチローさんや”“そうそ! でね…”
口調に熱を帯び始めてきた彼、永年(?)胸中で暖めつづけてきた壮大なる構想を語るのであった。


イチローさん、お誕生日おめでとうございます!バースデイに、時間差多発で懐かしのリポートをコピペして送ろうと言う計画、ジハードともとれる指令は闇のコピペ組織「タマカイーダ」率いるマルパソ ビンビン ラディンからジハードともとれる指令なのです。

て、ウワァオ!
早いッ早いよ村野さん(°□°;)
Posted by 信玄 at 2014年02月05日 23:50
TROOPERさん、御苦労さまでした。
そしてありがとう<m(__)m>。
Posted by CYPRESS at 2014年02月06日 22:40
確かにコレは長かったです。
2000 文字/分の速読をもってしても、職場の昼休みに画面の小さなスマホで読むのは大変でしたよ。

この話が『紫電の炎』にあった、「以前にFBIがらみの事件があってスィスコのチャイナタウンで4人の麻薬ハンを射殺したことがある」って話になるんですね。
そういえば、PPK/Sで15mからヘッドショットの話もあったかも…
Posted by Q太郎 at 2014年02月06日 22:54
 遅ればせながらお誕生日おめでとうございます。
 遅ればせながら同時多発カキコさせていただきます。私がLE現職のとき、たしか東海地方の〇暴絡みの事件でイングラムが使用されました(10か11かは覚えてません)。たしかオフィサーが重傷負ったかな? 当時の日本のLEでは貴重なGUNに詳しい者(ヒョットシテ今でも?)何人か集まった時、「イングラム向けられても威嚇発砲するか?」って結構本気で話しました。自分もどうするかかなり長い間考えましたが、今なら銃の使用基準当時と比べたら緩和されているし、オフィサーが重傷負っているって前例があるんで、今現職なら迷わず威嚇発砲しませんねハハハ。今月号の里マガ巻末のCREDIT TITLE,ARTIST ICHIRO NAGATAって素晴らしいですね。イチロー師匠にピッタリです。
Posted by 佐伯 at 2014年02月07日 00:31
こんばんようさんです。

信玄さん、マルパソ兄やん、TROOPERさん。
同時多発コピペごくろうさまです。

テキストコピペして、ありがたく・ゆっくり読み直しております。
(パソコの文字を読むより、紙で読みたいので)
M59とM84を引っ張り出して浸っております。
SIG-Proのモデルガンはないしね。。。。
Posted by まう@東大阪 at 2014年02月07日 00:43
ハウディー!

なななんだすかあ??
この身に覚えのナイ会話の数々は~??
・・って、こりゃあスネークマンショーの「ケンブリッジ イングリッシュ」じゃないだすか~!
(゜o゜)\(-_-) マンザイ

に、しても・・
おいらのことを「アイアンマン3」に登場するテロリスト〝ヴィラン〝の劣化コピー風味に仕上げてくれちゃいますて、ちくしょう、オモロイヤツめぇ♪
信ちゃん、おそろしい子!
♪(^_^;)b オホホホホホ

に、しても・・
これだけの大長編を一晩で仕上げてくれちゃった村野さん、きゃっほう、スゲーだすね~♪
村野さん、オトコらしい子!
♪(;☆◇☆)ノ オホホホホホ

に、しても・・
テキストコピペして、M59やM84を持ち出して読んでくださるまうさん、うっふん、スキモノだすねぇ♪
まうさん、かわいらしい子!
♪(^з^)-☆chu !

佐伯さ~ん(^〇^)/
同時多発カキコ どうもアガトリィ♪
o(^o^)o カンシャ
Posted by マルパソ84 at 2014年02月07日 23:22
同時多発カキコだけどぉ、信玄とKOちゃんのは文章がバラバラになっているので、まとめる元気というかヨユーがなくてね〜(^◇^;)ふたりとも一括してコピペできるようにまとめてくれるとウレピーのだけどね〜<(_ _)>
Posted by 市 at 2014年02月08日 00:27
はいい~っ。
f(^_^; エヘヘ

装弾、、あイヤ、相談するだすー。
m(__)m シバシオマチヲ
Posted by マルパソ84 at 2014年02月08日 01:35
ハウディー!

ムラさ~ん&イチローさ~ん(^〇^)/
スゲーおもしろかっただす~♪♪

ムラさん、同時多発カキコどうもアガトリィ♪
あの時ムラさんは、不鮮明な9枚のFaxと格闘して2日で仕上げてくれたんですたね~!!
o(;@▽@)o スゲー

ムラさん、どーもアガトリィ♪
o(^▽^)/ R.I.P.

by ミス ストラザーンにラーメンは来週になるといってみたいオトコ
Posted by マルパソ88 at 2015年06月03日 07:11
“ええと、思い出はスコーピオンだけど、M84に挑戦しても良いですよ”

そーいって 膨大な『ベレッタM84 小説』のタイピングに挑んでくれたムラさんが旅立って1年が経ちますた。
そんなムラさんに、Gun誌1981年12月号に掲載されたイチローさんの『スコーピオン 小説』を贈るだす~♪


『スコーピオン・ショート・ストーリー』
 アメリカ中には何百というスワット・チームがあるが、スコーピオンを持ったチームはベカビルくらいのものだろう。なぜなら、このSMGはアメリカに輸入されたことがないし、持ち込みも禁止されているからだ。共産国の武器は買わないことになっているのだ。
 ベカビルには大きな刑務所がある・・・・・・小さな平和なタウンなのにスワットがあるというのも、この刑務所を意識してイザという時を考えてのことだ・・・・・・その刑務所には多くの面会者がやってくる。当然、面会者は身体検査をされるわけだが、ある時、3人の女が面会を申し込んだ。囚人はふだつきの凶悪犯だ。係官は怪しいと思ったか、女の持ち物をいつもより念入りに調べると、はたして少量ながら麻薬を発見した。ただちに女達を逮捕し、さらに乗ってきた車を調べたら、スペア・タイヤの下にこのスコーピオンがあったのだ。さて、ではどうしてそのスコーピオンがチェコからはるばるU.S.A.まで旅行してきたのか?
 それは1969年の10月2日、深夜のことだった。シスコから国道1号線を北に50マイルほど行った所の海岸に、2人のKGBエージェントがアメリカ製のゴム・ボートで上陸した。スタクトンに向かうソ連の穀物輸送船から夜陰に乗じての飛び降りた2人だった。2人とも英語は堪能でアメリカの事情に精通し、大量のヘロインとドル、そして1人はトカレフ拳銃、もう1人はスコーピオンをかくし持っていた。この2人の使命は、当時アメリカが開発を計画していたMXミサイルの性能とコンコードにある海軍の弾薬貯蔵所に原爆があるかないかの確認だったと言う。
 2人は海岸で茶色のブレザーコートとLeeのジーパンに着かえると、別々に分かれて行動を開始した。スコーピオンの男は、国道のカーブのきつい所に待ち構えて、大型トラックがスピードを落とした時後ろから飛びついて、そのままサンフランシスコに入り、ランバード・ストリートで飛び降りてユニオン・ストリートの方に姿を消した。もうひとりのトカレフは、スコーピオンのように長い間ボリショイ・バレー団にいたわけではなかったので、そんな離れわざを使えず、ダンキン・ドーナツをかじりながら朝になるのを待った。明るくなったところで国道に出て、親指を立てながらサンフランシスコに向かってゆっくり歩き出す。つまり、ヒッチハイクで堂々とシスコに行こうというシャレた考えだ。車は20分に1台の割で通るが、なかなか止まってくれるものはいなかった。2時間ばかり経った頃、ダッヂのバンが人影を認めてか、スピードをゆるめながらトカレフの横をゆっくりと追い越し、止まるかと思ったらそのままカーブの向こうに消えてしまった。「オー、ファック!」とトカレフは英語でわめいて中指を空中に突き立てた。怒っても冷静な男だった。
 「オイ、みたかジャック・・・」と、ダッヂを運転していた男は助手席のサングラスに言った。「ハァー、あの腹の出っ張りでしょう?ベルトにオートをさしてますナ。たぶん.45か 9mmあたりじゃないかと思ってたところですよ。上着がちょっと厚いのでわからないけど、大型には間違いないですナ」
 その2人は日系人だった。しかも日系人にはめずらしく、GUNには目のない連中で、射撃の腕も決して悪くなかった。「あの男をひろったやつは、うまくいってもまる裸にされるか、下手したらBANGだな・・・」と運転手はつぶやいた。「やりますか、ストリート・クリーニングを・・・」ジャックと呼ばれる、苦みばしった顔の男は静かに言った。「仕方なかろう、見殺しはイカンものナ・・・」
 ダッヂの男は車を止め、黒のガンボックスから銀色に輝く6インチの大型リボルバーを取り出す。ヘビーなスラブ・バレルが付いた見事なハンドガンだった。男は素早くシリンダーをひらいて+Pのホローポイントを抜き取り、かわりに緑色のブレットが付いた.357マグナムを6発装填する。「KTW・・・やっぱり、ポリスには届けないのですナ・・・」と、ジャックは低くつぶやく。「ウン、道路のこちらからやつをヒットすれば、タマは1マイル彼方の海底に落ちるって寸法さ・・・ポリスとのゴタゴタはメンドーだからな」
 運転手とジャックは車から飛び降りるとカーブの少し手前にある路肩の岩に身をかくして待った。
 待つほどもなくトカレフは視界に入ってきた。1号線の海側を疲れたような足取りでやってくる。その距離30mに縮まった時、ジャックが岩かげから出て怒鳴った。
 「ヘイ、ライドが欲しいんだろ、乗せてやってもいいゼ」
 トカレフはギクッとして声の方を見ると相手は丸腰だ。ちょっと安心した。「そうか、助かるゼ、さんざん歩いてクタクタさ、ところでお前さんひとりかね?」「そうさ、その前にちょっと上着のボタンを外して内側を見せてくれないか、俺は心配性でネ、もしGUNを持っているんだったら捨ててもらいたいだけなんだ」「気の毒だが、俺も心配性なんだ。これなしにはやってけないんだな。それにこれさえあればお前さんのあのクルマもいただけるしね」と言いながら上着のボタンを外しトカレフを抜きかけた時だ、ジャックから数m離れた岩の下の草むらで凄まじくカン高い爆発音が起こった。プローンに構えた運転手の6インチが吠えたのだ。トカレフの鼻のあたりにポツリと穴があく。テフロンコーテッドされたソリッドブラスのタマはトカレフの延髄を破壊させながら、はるか海の彼方に飛び去った。証拠になるタマは回収不可能となったわけだ。
 倒れたトカレフを目立たぬ草むらにころがした2人は所持品を検査する。「約束通りGUNはターゲットの役をしたオレがもらいますよ、ちょうどトカレフの特集記事を作ろうと思ってたんスよ」と、ジャックはトカレフの土をぬぐう。「オイ、この白い粉は麻薬じゃないか?」バッグから取り出した包みを開いた運転手が驚いた声を出す。「こりゃ10キロはあるぜ・・・ペッペッ、まずいもんだな。こりゃ、麻薬にちがいないぞ、ソーレッ!」と、包みを次々に空に投げる。「ハイヨ!」とジャックがおどけてパイソンをショルダー・ホルスターから抜きざま片っぱしから撃ち砕く。真っ白い粉が粉雪のように海面に舞った。10kgのヘロイン・・・残念ながら、この2人はその価値と売り方を知らなかったのだ。もし、知っていたら、今頃は、サンタバーバラにシューティング・レンジ付きの別荘を持ってハッピーな毎日を過ごせたはずだ。そのチャンスを逃がしたために2人は今だに忙しいガン・レポーターとして毎月を〆切りに追われ続けているのである。


 ドハハハ・・・ここまで書いたら、スコーピオンの経路については全くワシの創作であることが分かっちまったでしょうが、実はポリス・デパートメントでも調べがつかないので、勝手に空想してしまったわけです・・・。なに?ついでに続きを書いてしまえだって? イエス・サー!


 一方、トラックに飛び付いてシスコ入りを果たしたスコーピオンは、ユニオン・ストリートでシャレた服や帽子、靴などを買い揃え、その足でカー・ディーラーの多いバンネス・ストリートに出てフィアットのスポーツカーを購入する。フィアットなどと言うチープなクルマに憧れるところがKGBの貧しさと言うかドンくささだが、日頃は冷静に任務だけを遂行するスコーピオンもアメリカの物資の豊かさをまのあたりにして「オレも条件さえ良ければ亡命してもいいかもしれん・・・」などといった考えがチラリと頭のどこかをかすめる。まず麻薬ルートとコネクションを持ち、マフィアとの関係をつける。そこで大量のへロインと引き換えに、まずコンコードの海軍基地にある核兵器の秘密をいただく──。これがとりあえずスコーピオンがとるべき行動だった。まず、どの店に行くかということなどは、すべて本国で調べがついていた。スコーピオンはオファレル・ストリートにある、しけた感じのバーに入った。そこには顔面をヒゲで埋めつくして、人相も分からなくなった、これまたしけた感じのバーテンダーがいた。名をカールと言い、マフィアの組織の末端にバイ菌のようにこびりついている男なのだ。そして、自我だけはやたらに強く、自分はいつでも組織から離れて独立できるというのが口ぐせで、拳銃の上手さと知識を自慢し、たいして美人でもない金髪のぎすぎすした女房をすぐにひざに抱いて他に見せびらかすことくらいしか能のない男だ。KGBの調べでは、その拳銃の腕にしろ、すぐにあせって地面を撃ち、知識と言っても分解と組み立てくらいという小学生なみであることが分かっていた。
 「アンタがカールだね。ハジキが上手いってウワサだゼ」とスコーピオンはくすぐる。
 「ソーでもないけどよ、ムカシ軍隊にいたしね・・・」と、単純なカールはたちまち打ち解ける。
 「ところで、ヤクを10キロばかり持ってるんだがね。アンタの上の方に伝えてもらえないか、お礼はアンタにもするよ」
 「オーット、ダンナ。冗談はいけませんや。アンタ新顔ですかい?でも、ホラ、あそこのスミにいるアル中みたいな男を知ってるでしょう。半年ばかり前にサンディエゴPDからSFPDに移ってきた麻薬Gメンですぜ。アイサツでもしたらどうですかい。それくらいはコチトラにも分かってるんですぜ」と小声でアゴをしゃくる。
 「そうか、ではアイサツをするから、他の客が入ってくる前に店を閉めちまいな」と言いながらスコーピオンを取り出したKGBエージェントは、サイレンサ-をカチリと装着したかと思うと、バーの隅でグッタリしている男の左腕を無造作に撃った。プルルルという音がしたかと思うと天井にケースが当たってバラバラと落ちた。撃たれた男はアル中とはとうてい思えない素早さで横っ飛びに飛んでアンクル・ホルスターからスナブ・ノーズを抜こうとした。とたんにスコーピオンが長々とバイブレイトして、男ははじかれたようにひっくり返る。あまりのことにド胆を抜かれたカールの頭に、落ちてきたケースがコチン コチンと当たる。
 「いや、アンタの言うとおり、やつはポリ公さんだったようだ。だが、オレは仲間じゃないのがこれで分かったろう・・・」

 カールはふるえる手でマフィアのチンピラに電話し、そのチンピラが幹部に知らせてから、事は急速に運ぶ。
 「かくしたって仕方がないから言うが、俺はある国の諜報員だ。実はヤクとの引き換えに、ある情報が欲しいわけだ。ヤクはある所にかくしてあるが、明日でも渡せるゼ・・・」
 スコーピオンの取り引き話を聞き終わったマフィアの幹部、名をナザリーノというさすがにドスの効いた男だった。いきなり胸の奥からベレッタの.380を抜いてスコーピオンに突き付け、KGBのGUNを奪うとゆっくり言った。
 「御苦労だったが、アンタにはセメント・シューズをはいてもらう。タルの中にセメントを入れて両足を突っ込んでおくと半日で固まる。そしたらシスコから45マイル沖に出かけるわけだ。そこまで行くと海溝があってな、底なしに深いんだ。そしてドブン・・・。我々を裏切った仲間は、そして敵もだが、皆あそこに沈んでいる。たいていの連中は放り込む前に頭に1発ナマリだまを入れてやるが、アンタのためにはそのナマリもケチらせてもらうことになる。イヤ、へロインなんていらんよ。それよりも、ウチのドンときたら大の赤ぎらいでな・・・愛国者なんだよ、ウチのボスは・・・」そういうわけで、スコーピオンもアッサリと消されてしまい、ケチで臆病なカールは、店を一軒持たせてもらえるという約束で、Gメン殺しの犯人として自首し、その妻であったニーナがチェコのSMGスコーピオンを自分のクルマのスペア・タイヤの下にかくしていた・・・・・・というわけでした。(完)
Posted by マロンパ89 at 2016年04月15日 19:27
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