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2013年02月23日

★ 瀕死のカナリヤ ★ 紫電の炎

市 (2013年02月23日 13:41) │Comments(1)語りのプラザ
★ 瀕死のカナリヤ ★
 スプリングフィールドのダウンタウンにあるデニーズに入った。上等なレストランは薄暗いので避けた。
 明るいところで快活に事態を分析したかったのだ。しばらくは沈黙したままフィッシュフライを食べた。カレンは野菜サラダにフレンチドレッスィングをかけて少しずつ口に運んだ。まるで毒を飲んでしまったように、その姿は憔悴していた。
 運命の毒牙に引っかけられた瀕死のカナリヤは、それでも充分に美しくて魅力に満ちていると思った。
 熱いティーを飲みながら彼女に見とれ、そしていろいろと考えていた。
 “なーに? どうしたの…”
 カレンはチラッと瞳をあげて、また下を向いて小声でそう言った。
 “ウン…色の白いは七難かくす、というコトワザがあってね…美人は困難に陥っても必ず男が助けてくれるという意味なんだ”
 “…だから?”
 “君がこんな魅力のある人でなかったら、ぼくは知らん顔してバイバイしたんだろうなと、そう思ったら自分のエゴがつらくなちゃったんだ…そのうえ、カッコ良く君を助ける能力がぼくにはないしね…”
“あなたって、素直に自分を正視するのね?”
“見たくないけど見えてしまうんだ”
“普通の人は見えているのに見ないのよ”
“ある程度、その方が幸福になれるな”
“見せかけの幸福よ、そういうのは”
“どっちにしても哀しいものだ…”
“ほかにないの?コトワザ・・・”
“えーと、これはふたつをくっつけたんだけどね「渡る世間に鬼はいないが人を見たらドロボーと思え」というのがあるよ”
 “ウフ、フフフ、それってすごくおかしい!なんだかズバリと人間の世界を言いあてているようね”
 まだ悲しみの影を引きずってはいたがカレンの顔には薄日が差したようだった。
 “しかし、この辺りには悪い鬼達がいる、麻薬で変心した悪党がね”
 “あなたはこの問題に関係しないでね”
 “君がぼくだったらどうする?関係しないかい?・・・どうなの? ほっとくかい?”
“わからないわ、そんなこと・・・”
“するにきまってる、だろ?”
“私と一緒に殴りこんでくれるの?”
“そうして欲しい?”
“だめだめ、そんなことだったら私、姉のことを諦める。これ以上に被害を大きくできないもの”
“ちょっとここでデータをノートに書きながら整理しようか。事態をしっかり把握するにはこれが一番だからね、解決の糸口が見えるかも知れないよ。カレンはボクの質問に答えるんだよ、いいね?”
“そうね、いいやり方だわ”
“まず麻薬グループがある、これ人数はどれくらい?”
“8人がメインなの、ボスは特にいないけど、そのうちの3人はとても残虐でね、楽しみながら人を殺すというウワサがあるのよ。ときどきヴィヴィセクションパーティーというのを開くんだって”
“ヴィヴィセクションだって?生きたまま解剖とか?”
“女を裸にして、ベッドに縛りつけてナイフでゆっくりと切り刻むそうよ…”
 思わず、ペンの動きが止まった。後頭部がカッと熱くなって髪が逆立ってくるのを感じた。その一言によって闘争本能が引きずり出された。身体がブルッと震えた。筋肉が固くなった。アドレナリンが身体中にズワーッと回り始めたのだ。日頃はもの静かな自分が凶暴になっていくのを抑えようがなかった。その8人の存在を無視して通り過ぎることはもうできないと思った。
 以前にFBIがらみの事件があってサンフランのチャイナタウンで4人の麻薬犯を射殺したことがある。あのときはギャングたちに対する憐れみを感じながらトゥリガーを引いたものだった。人間である自分が同じ人間を殺さなければならないという哀しみにまみれながら仕事を果たしたものだった。
 だが、今度の奴らは違う、カレン姉妹の敵は人間ではないっ!
 “イチローっ、こわい目してる、怖いっ!”
 “あっ、ごめん、ごめん…でも怖いのはヤツラだよ”
“人間の目じゃなかったわよ、今の目は…”
“どうして知ってるの? ヴィヴィセクションパーティーとやらの話だけど…”
“兄が見せられたのよ、そのパーティーを。それで兄は口止めしながらも姉に話したの。あまりのことに姉も秘密にしておけなくて私に話したのよ”
“本当のことだろうか?”
“あの町では女性がときどき失踪するのよ。身体を売ってる人とか、旅行に来た若い人がね。そんな事件が今年だけでも7件はあったのよ。フェラーリで通りかかった大金持ちの娘が消えたりしてFBIも来たけど解決しないままになってるわ”
“それで、奴らのいる場所は?”
“クオモタウンのブラディーベッドというのが姉の行くストリップバーだということしか知らないわ”
“奴らの特徴はわかる?”
“姉なら知ってるけど私はひとりしか知らないの…あ、新聞に3人のリーダーの写真は載ったことがあったそうよ、なんとか探してみようか?”
“うん、でもどうして新聞に?”
“恐喝罪で訴えられたのよ。たしか3人の名前はジョニーとジェリー、それにジャックだったわ。スリーJギャングとか書いてあったもの。ジョニーだけは私にシツコク言い寄ってきているので知ってるわ、キモチの悪い恐ろしい感じのヒトよ。ふつう、垂れ目ってかわいいものだけど、ジョニーって不気味そのものなのよ…”
“ふん、それで?”
“訴えた男性は裁判中、家に押しこんだ強盗に撃たれて死んだわ…奥さんも子供もよ”
“その強盗は捕まらないんだね”
“みんな犯人が誰だかを知っているのにね…”
“そうか、それだけ有名な悪党なのか。じゃFBIがマークしてるから近いうちに捕まるだろうな。時間はかかるかも知れないが、必ずみんな逮捕されるよ”
“ほんとっ?”
“うんっ、昔はともかく、今のFBIはたいしたものだからね、だいじょうぶだよ”
“でも、今夜までに解決なんて訳にはいかないわよね”
“うん……、姉さんがいて、兄さんがいてと…ブラディーベッドがあってそこにスリーJがいて、兄さんはその仲間で、姉さんは彼のために売春をと…断れば3人とも殺されるということか…ヤツラ知ってるかな、カレンが来てることを?”
“知らないハズよ、姉とは私のモテルで会ったし、アパートにも行ってないしね”
“そう、でも念のために今夜はモテルを移るんだね”
“うん、バッグをピックアップして移るわ…でも、そして私はどうすればいいの?姉のことは?”
“客観的に見て、ここでは兄さんを諦めることになるだろうね。彼のまいたタネだし、人質とはいっても彼はスリーJの仲間になってしまっている。その上に愛する姉さんを売春婦にする側に回っているんだ、もう同情の余地などないよ。姉さんと君は逃げるんだ、それしかない…それにふたりが逃げてもスリーJは兄さんを殺しはしないよ。多少でも兄さんに利用価値がある限りは殺さない。まともな悪党はバカではないからね”
“姉は逃げないわ、身体を売ってでも兄をなんとかしようとするわ・・・そういう人なのよ姉という人は”
“ムリヤリ連れ出したら?”
“だめよ、即断のできない人だから”
“どうしてそんなに彼女は兄さんを溺愛してるの?”
“解らないわ、でも兄は姉を異常に慕っていたわ”
“仲良しキョーダイの溺愛関係、これじゃ、奴らの思うツボというもんだ、どうしようもない!”
“そんなこと言わないで…わたし悲しい…”
“姉さんは意外とこんな状況を心のどこかで楽しんでいるんじゃないかな?妹が心配するほどには本人は苦しんではいない気がしなくはないね”
“それは、ある程度言えてるかも知れない”
“じゃ、姉さんもほっとくか?”
“ほおっとくとどうなるの?”
“ん~、麻薬漬けのジャンキーになる”
“……耐えられないわ…ドイツからの移民の子としてやっとアメリカに根付いた私たち…父が死に、母が死んで、そうして3人でさみしく生きてきたのに…”
“…必ず弱い者がヒドイ目に遭う、か…まったく君の言うとおりだ”
 泣き崩れるカレンを前にして、頭に疲れを感じた。さきほどは、カレンの不幸を知って涙が溢れたものの当の本人たちが現状を打破しようという意欲を失っているのだ。カレンの姉にしても救い出すに値するのかどうかさえわからない。
 しかし、カレンのストーリーはそれとしても、黙って通過することのできない問題があった。
 他でもない、スリーJのことだ。
 野放しにできない危険な野獣の巣窟があるという事実は、狩猟本能をそそるのに充分なものがあった。ドクリ、ドクリと、鼓動が強くなり高まっていった。


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Posted by 市 at 13:41Comments(1)語りのプラザ
この記事へのコメント
いやー、いいですね!(^ー^)
続きが楽しみで楽しみで(*^^*)

なんだかチャールズブロンソンを思い出してしまいました。(^^;
Posted by モゲ at 2013年02月25日 00:57
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