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2013年02月21日

★Pセヴン★ 紫電の炎

市 (2013年02月21日 12:14) │Comments(3)語りのプラザ
★Pセヴン★
次の日、撮影の仕事を早く切り上げて3時前にスミス&ウエッスン社のメインゲイトに行った。
 10分前なのにカレンはもう来ていた。ジーンズとピンクの半袖シャーツ、そしてピンクのナイキ シューズがよく似合っていた。
“ヘーイ、約束の時刻を守るんだねぇー!”
“そーよ、相手を待たせるなんてとっても失礼なことでしょう?だからよ”
“うんうん、マッスマス気に入ったね。さっ、レンジに行こか!”
 S&W社の専用シューティングレンジは工場から20キロ離れた所にある。300メートルを撃てる広いレンジで、その日は誰もいなかった。
“うわー、広くて気持ちいい!なんだか晴々してきそうよ、うれしいわ!”
 そう言いつつ、カレンは両手を高々と挙げて背伸びをした。そのしぐさがとても可愛く、飛びかかって抱きしめたいという衝動にかられた、が、見ていないふりをした。肩で揺れる彼女のヘアが残像となって網膜に焼き付いた。気がおぼろになりそうだ。震い付きたいとはこのことかと想った。
“ねっ?いつ来るの?紹介してくれるインストラクターは?”
“えっ?・・・あ・・・世界一の良い男のことだよね?ヤツならもう来ているよホラ、ここに、君の目の前だ”
 と、人差し指で自分の鼻をさす。ここではおどけて本心を隠すしかない。
“………”
 無言のままジッと睨まれた。
“冗談じゃないって、ホントにぼくは射撃を教える資格を持ってるんだから”
“資格ったって、講義さえ受ければ誰でももらえるという実のないNRAインストラクターなんていうのじゃダメよ。知ってるのよ、あんなインチキ資格を持ってる人に限って自慢するのだから…”
 カレンは遠慮無くつっこんでくるところがある、だが言い方が爽やかなせいで文章から感じるほどの激しさはない。言いたいことをイヤミなくいえる女性のようだ。
“ぼくのは FBIとS&Wアカデミーの発行したもの両方だよ、ほんとに…”
“言わなかったわ、そんなこと”
“聞かなかったじゃないか”
“Aクラスというのはどうだか?・・・ビアンキカップに出てるというのもほんと?”
“ほんとだってば、カップは17位だったんだ、しいてウソを探すなら世界一の良い男というところで、男前でいえば一番でなくてホントは世界の3位くらいだけどね”
“ふふふ………”
“カレンはこんな男が世界ランキングのシューターなんてシンジラレナーイって考えているんだよね?”
“それもあるけど、私、人の観察方法が完全に間違っているんじゃないかという気がしてきたの。あなたはこんなウソを言う人じゃないから・・・あの格闘術をこの目で見たのだし、間違っているのは私だろうなって…”
“ははは、まったくそのとーりだ、反省したまえ心理学のセンセイ様。さあさ、楽しいシューティングを始めようではないか。ところでカレン先生はなんというウエポンをお持ちですかな?”
“Pセヴンというオートローダーよ、きっとあなたは知らないと思うけど”
“へー、エイチンケイかぁ…”
“まあ、ヘックラー&コックをご存じなの?  M13の方なのよ、ほら、これよっ”
そう言いながら彼女はM13をハンドバッグから出し両手に乗せて差し出した。柔らかいカレンの手に乗った小型の精密機械はいっそう個性的に輝いて見えた。
“コラッ!人に銃を渡すときはチェンバーからタマを抜かないと危ないじゃないか!非常識だぞっ!”
“あ〜!ごめん、ごめん。でもどうして判ったのかな?触ってもいないのに…”
“エクストラクターのフロントがせり上がっている”
“あっ、そういうものなの?”
 M13を受け取って、抜いたマガズィンを右手の小指にはさみスライドをビッと引くとチェンバーのカートリッジが宙に舞う。それをパッと左手で取った。
“ワンダフル!あなたはプロなのね。今までPセヴンを触ったことのある人なんていなかったのよ。マグリリースを押すときトゥリガーフィンガーを使ったわね。M13の場合はそうするのが本当だって父が教えてくれたのを想い出したわ…”
“でもね、ぼくのPセヴンは左の親指でキャッチを押すんだよ。うんと初期のまだM8という名がつく以前のモノなんだ。そのころはPセヴンといえば8連マグだけだったんだよ。やがて13連のダブルカアラムが発売されてM13とM8とに分かれたんだよ”
“そうなの?…持っているのね? 見たいなぁ、あなたのPセヴンを触ってみたい…”
“君って銃が好きなの?”
“好きだわ。とくにPセヴンがね、あのね、父がこれを持っていなさいと言ってくれたのはワルサーPPKだったのよ。でも私、そっちのでなきゃイヤーと騒いでとうとうもらったのが、このM13だったの”
“こんな大きなのはカレンには使いこなせなーい!こっちの小さいのにしなさーい…”
“そうそう、そう言って父はなかなかくれなかったのよね。でも、私、これ以外だったらいらないと思った。これってとても存在感が強いでしょ?メリハリがピシパシとあって、きわだった個性があって、生命感さえもにじみ出ているんだわ。どっからどこまでタイトな感覚があってスキがなくて、見たところ小柄なんだけれど、握るとアッと思うくらいにふてぶてしくて、まるで野生の馬のように精悍な手ごわさがあって、私、そんなPセヴンが大好きなの。この知的で強い用心棒がいつも一緒だと思うだけで安心して生きていられるような気がしてしまうのよ・・・”
“…驚いたなあ、君の感受性というか、表現力、的確というのを通り越こして芸術的だ”
“ねぇ、プロから見てどうなの?Pセヴンは?本当のところを一度聞きたかったの、教えてくれる?どうして知名度が低いの?実力はどうなの?
“うん、知名度は決して低くはないよ。ちょっと知識のある人ならみんな知ってはいるよ。知ってるけれど撃ったことはないという場合が多いね。でも、あまり売れてはいないというのも確かだね。その原因は値段の高さにあるんだよ。ベレッタやコルトやS&Wなどの同クラスの銃と比較して軽く2倍という値段だからね。つまり、P7を1梃だけよりベレッタ92FとM59の2梃を買った方がいいというファンが多いワケだね。同じ理由からSIGのP210のような超高級銃もあまり売れないんだ。でも本当は安物をたくさん持つより、心底から惚れた銃を1梃持ってるほうが精神的な満足感ははるかに高いよね。安物をいくら多く所有しても充足感は得られない。バカなヤツラ大勢と付き合うよりも、自分を成長させてくれるひとりの人の方が良いといった感じかな”
“どうしてそんなに高価なの?Pセヴンはその分品質が高いというワケ?”
“うん、高品質そのものだよ。エイチンケイのものは手がかかっている。近代的なんだけど、昔ながらの名人芸を注ぎこんで造っているようなところがあって、そこが魅力なんだよね。良い意味でも悪い意味でも、頑固一徹なドイツ人の精神と根性とがキッパリと表現された作品だと思うね。君がPセヴンに強烈な魅力を感じるのはそんなところからだと思うんだけどね”
“うれしいわ…ねっ?それで拳銃としての実力はどれくらいなの?それほど大したことないのかな?”
“とんでもない。ファーストクラスさ。第一級の信頼性と精度があるよ。オートの場合、マガズィンがとても重要で、銃本体の設計にかける精力と同じくらいマグにも努力しなければならないというほどに重要なことなんだよ。P7のマグは、まぎれもなく最高なんだ。本来なら15連のサイズなのに、上の方を絞ってフィーディンをより安定させ、あえて13連に減らしたところにドイツ人の凝りがある。しかも、造りがこれまた素晴らしいのだよ。手触りでも判ることだけど上等な機械で上等な鉄を使って造られているんだな。さらにだよ、P7のマグは、他のピストルと違ってスライドに対してより直角に近くなっているんだ。マグはスライドと直角になるのが理想なんだけど、ピストルでそれをやるとグリップアングルが不自然になってしまうんだ。だから、マグのアングルはグリップに追従するというのがフツーのやり方なワケだ。でも、P7はギリギリにそこを攻めて攻めつくしたんだ。グリップの形も上下ストレイトにして、ヨーロッパ特有の下膨れ症候群から脱却している。両側にあるマグリリース、大きなトゥリガーガード、ユニークなトゥリガーメカニズム、あらゆるところでしっかりと踏みこんで、よく造ってあるんだよ。でも、P7の最大特徴はなんといってもショートリコイルをやめてPPKなようなストレイトブロウバックになっているところだね。もちろんナマのブロウバックでは9ミリルガー弾のキックをハンドルできるワケがないので、ディレイタイプになっている。ディレイブロウバックは過去にイロイロと出たがサヴァイヴしたものはなかった。スライドの強烈な後退にうまくブレイキをかけるのは難しいのだよ。そこでP7は、バレルの下にスィリンダーを設け、スライドに直結したピストンをその中に入れたんだ。チェンバーのすぐのところには穴があり、それがスィリンダーにつながっている。タマがホールを通過したとたんにガスはスィリンダーに流れこむ。発射の反動を受けて後退するスライドには、ガスの抵抗を受けたピストンによって急ブレイキがかかる。だからスライドはフレイムに激突しないですむというシカケなのだよ、判るかな?“
“よく判らないけれど。PPK の9ミリショートとPセヴンの9ミリルガーとはずいぶんとエナジーに差があるという感じなのね”
“まあ、構造知識はそんなところでいいよ。クルマのエンジンについて知っているから運転がうまいかといえば、まったくそんなことないからね、射撃とメカ知識は別ものさ”
“私のボディーガードがつわ者で実力者だと判ってとっても嬉しい!ありがとう!”
“ピストルの種類はゴマンとあるけれど、実際に命をかけて敵と撃ち合うときに安心して使えるモノは数少ないんだ、が、P7はその中の1梃だよ。ところで、P7にはニックネイムがあるのを知ってる?”
“まあ、教えて!”
“ステイプラーって言うんだ”
“え、あのホチキスのこと?”
 “そう、ジャッキン、ジャッキンのあれさ”
“スクイズコッカーのことね?”
“そう、この音はP7の最大の欠点と言われている”
“私、ぜんぜん気にしてなかったわ”
“たまにマズイときがあるんだよ”
“まあ、そうなの?”
“それも使いこなしのモンダイかな…”
“解りませんが、そうですとも”
“ところで、モンクを…”
“なーに?”
 “チェンバーにタマを入れたままの銃を人に渡すのはゼッタイにいけない”
“はーい…”
“そういった方法で相手を試すのは危険だからしてはいけないよ”
“…試したなんて、どうして判るの?”
“ぼくも、たまにやるから”
“あははははは…ローデッドガンを渡して扱い方を観察すると、その人の技量が判るというのは父から習ったのよ”
 “もう止めようね、お互いにね・・・”


巻末特別付録 『紫電の炎 裏話』(^o^)

今はなきMGCがP7を発売するにあたり
広告課のてっちゃんからカタログ撮影と
文章を依頼されました。
ほんでもって撮影がすんでP7の特徴など
に関するキャプションを書くことにし
聞き役にカレンという人物設定をした
ところカレンはズンズンと走りだし
静止することもできずその行動を
ワシはメモっていきました。

そしてストーリーはあらぬ方向に
展開してゆき、延々と続きました。

これではカタログに入りきるわけも
ありません(^_^;)
そこで広告には一部を抜粋したと
いうわけです。

そしてその後もストーリーは完結
せず、気がついたらなんと
10日間もかかってしまったのです

ほんとにカレンはオテンバでしたよ。
(^-^)




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Posted by 市 at 12:14Comments(3)語りのプラザ
この記事へのコメント
イチローのセリフ
(とんでもない、ファーストクラスさ)辺りから何やら思考が消極的になってまいりました。^^;
長いセリフの後、二人の会話から復活して、次どうなるの⁈で大満足です。イチローさんの頭の中で登場人物が自由に動いているのですね…。前にもブログでそのようなことが書かれてありましたが素晴らしいですね。(=^ェ^=)
Posted by 薩摩小雪 at 2013年02月21日 15:00
ねえコユキ、これが高等なユーモアでなくって、ただのオヤジギャグだって? では君のハズに読ませてごらんよ、けっこうクスクスクスクスと笑い続けるハズだよ(^-^)・・・ということはそうか・・・やはりオヤジでないと解らんギャグなのか(^◇^;)
Posted by 市市 at 2013年02月21日 16:11
何度もしつこく申し訳ございません。
イチローさん 最高\(^o^)/ですね!
Posted by 薩摩小雪 at 2013年02月21日 16:54
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